ヨガを終えた家内と待ち合わせし夕刻、立花の正宗屋に向かった。
大衆酒場であるが料理は絶品。
家内もそれを知っているので場末感たっぷりの店であっても抵抗がない。
キリンの瓶ビールと刺し身の盛り合わせと串カツの盛り合わせ、そして正宗屋では必須、おでんのすじをまずは頼んだ。
ちょうどそのとき長男から選抜テストの結果を知らせるメールが入った。
4つに分かれる英語履修コースのうち最上級のクラスに受かったということだった。
なんであれめでたい。
それを祝して夫婦で乾杯し、彼がくぐり抜けた孤独な受験勉強について振り返ることになった。
英語と数学を得点源として臨んだ大学入試であった。
数学は独学で足りたが英語はライティングについて細かなニュアンスなどハイレベルな助けが必要だった。
それで高3春から四谷学院のお世話になったところ、個別の先生がとても親身で熱心でメキメキ強さが増した。
西大和東大クラスについては東大一辺倒といった感じであり、早慶を視野に入れた対策などあり得なかった。
早慶を併願するなど軟弱の徒とまで言う先生がいるのであるからそもそも早慶を持ち出すこと自体が憚られる雰囲気であり、東大だけを目指す生徒からすれば早慶などFランクも同然であって洟も引っ掛けない存在でしかないからやはり話題にすらし難かった。
現役での合格を確実なものにするためには早慶は外せず、その対策を疎かにできない。
うちはそのような考えを強めていったので、だんだん学校の方針とは相容れなくなった。
それで学校に頼み込み、夏は学校に行かず四谷学院にこもって独自に勉強を進めることになった。
がしかし、それをあげつらって息子不在の授業の際にある先生が断言したという。
あいつは300%の確率で全部落ちる。
そう嘲り放たれた言葉に対し、生徒らは驚きこれは問題発言ではないかと耳を疑ったが、一瞬後、長いものには巻かれろと思ったのだろう、先生に続いて皆も一斉に笑うことになった。
そんな話を伝え聞き頭がカチ割られるほどのショックを受けて息も絶え絶えとなりつつも、そこを踏ん張り持ちこたえることができたのは四谷学院の先生の支えがあったからこそだろう。
そして果たして300%落ちるといった呪いの言葉をはねのけて、息子は無事大学に合格し、いま新天地にて新たな出会いに胸踊らせる毎日を過ごしている。
奇遇にも四谷学院の先生もこの春から東京の校舎に赴任した。
近くに寄れば息子は顔を出して挨拶するだろうし、そのときになって彼は痛感するだろう。
捨てる神あれば拾う神あり。
どんな辛い状況もいつかは過ぎ去り、笑い飛ばせる思い出話になっていく。
子が卒業した学校のことを悪くは言いたくない。
胸のうちそんな思いが去来する父兄も少なくないのではないだろうか。