京都で業務を終え、おうすの里で梅干しを二種買い家へとまっすぐ向かう。
近鉄線からJR東西線に乗り換え、あとは着くのを待つばかり。
が、ふとスマホで調べると所要一時間以上。
そうと分かって気が遠くなった。
元気なら一時間など何でもない。
しかも座って過ごすのであればあれこれ利用できてまさに天の恵み、そう喜んでもいいくらいのものである。
ところがこのときのわたしは疲労も空腹もピークに達しつつあった。
この状態で一時間以上座り続けるなど、飼い主に待てと命ぜられじっと伏せて過ごすようなものであるから、これはつらい。
第一、自営業で過ごし十数年である。
待てと言われて伏せることに慣れていない。
気が遠くなるのも仕方のないことであった。
電車が賑やかな駅で停まる度、衝動が起こる。
改札を抜け街に出て一休み。
刺し身にビールで軽く小腹満たせば、一気に回復。
そう思うが、しかし、耐えに耐えた。
家で家内が料理を作って待っている。
あと少しの辛抱だ。
そして明けない夜はなく、目指す駅に着かない電車もないのだった。
やっとのこと家に着き、最初に出されたのが、どて焼き。
どて焼きと言えば正宗屋。
名店の味に通じるわたしにどて焼を出すなどいい度胸の女房である。
どれどれと一口食べて驚いた。
肉の素材はもちろん、食感、風味、すべてにおいて女房作が優っていた。
あの正宗屋に勝つなど凡百の主婦にできることではない。
途中下車を我慢した甲斐があったというものである。
続いては山盛りのサラダ。
食べ疲れるほどの分量を踏破して、ようやくこの日メインの特製春巻き。
チーズとぷりぷりのエビが小気味よく調和して、揚げ加減も絶妙、これまた美味しい仕上がりだった。
二男が帰宅し風呂に入る間、家内の耳つぼマッサを受けながらテレビを見る。
わたしはチャンネルをKBSのニュースに合わせた。
一言も一文字も理解できないが、たまにこうして異国のニュースを眺めて過ごす。
内容不明であっても映し出される横顔がみな、何かの渦中にあって不穏な状況に取り巻かれている、ということくらいは推測できる。
いろいろたいへんなのだなあとだけ思って眺めていると、だんだんそれら他人事が普遍化されるのか、別にどうってことではないといった印象に変わっていく。
つまり、いつどこで誰に降りかかってもおかしくない話であって、それら出来事のすべては、猿に尻尾があるみたいに人間一般と一体。
理解できないからこそ人の業が渦巻くパノラマ世界を虚心に俯瞰でき、いい意味でのあきらめの境地に至って安らぐことができる。
KBSワールド、おすすめである。