田中院長に連れられたのが最初だった。
さかのぼること5年前のこと。
当時、鮨こいきは四天王寺ワッシーズの真ん前にあった。
あまりに美味しくて驚いた。
その記憶はいまも鮮明だ。
章夫も常連だったので以後、星光33期の飲み会で何度か使った。
きょうちゃん、森山、しばてん、貴治、カネちゃん、妹尾、天六いんちょらと感動体験を共有したことがまだ記憶に新しい。
当然、家内も連れて訪れたし、鷲尾先生とも訪れた。
しかし、突如店じまいになって、時間とともに次第、鮨こいきが話題にのぼることはなくなった。
だから沈黙の時を経て桃谷の地で新装開店となったときは、鮮烈な形でその情報が皆の間を駆け巡った。
早速また33期で集まり、鷲尾先生と訪れ、家内を連れた。
が、鮨こいきが閉店していた間に、主な飲み場がすっかり北の方に移動していたことと、桃谷に足を向けることがほとんどないこともあってやはり以後も疎遠な状態が続くことになった。
この水曜日、機会あって久方ぶり鮨こいきを訪れることになった。
昔の記憶をたどってその味を反芻し、朝から楽しみでならず、激務であったが鮨こいきがあるから何もかも平気のへの字で耐え抜けた。
午後8時前、そのカウンターに腰掛けた。
出だしから舌を巻いた。
やはりとびきり。
鮨こいきは記憶以上においしかった。
大将がすすめてくれた十四代とかいう山形の日本酒も信じ難いほどだった。
うっかりすれば子どもでも飲めてしまえそうな奇跡の口当たりで、そこに選りすぐりかつ仕込みにたっぷり時間をかけられた珠玉の握りが差し出されるのであるから、もはやこれは絶頂体験というしかなかった。
そしてふとわたしは衝撃の事実に気づくことになった。
鮨こいきにまだ安本先生をお連れしていない。
数々の店にお供しながら、鮨こいきを外すなど従者としてあってはならないことだった。
だから、次回の鮨こいきは安本先生をお誘いして、ということになる。
タコちゃんが近くにいてカネちゃんも近い。
もちろん天六いんちょも駆けつけてくれるに違いない。
桃谷と言えば下町。
ケンカが一番強いのは誰か。
頭が一番いいのは誰か。
物心ついた頃から男子はこの2点だけを問われ、頭を撫でられるか頭をはたかれるか二つに一つという分かりやすい環境に置かれる。
そんな地域に店を構えた鮨こいきの心意気が手に取るように分かる。
いちばんおいしい鮨を握るのは、おれだ。
実力だけがあからさまに問われて評価される地域にあって、大将の秘めた自負心がありありと伝わってくる。
次回飲み会は、鮨こいき会議と銘打とう。
どこが一番美味しい寿司屋なのか。
その場で自ずと結論が出るだろう。