KORANIKATARU

子らに語る時々日記

出回る前に既に話がついている

甲州ワインを互いのグラスに注いで夕飯。

出だしは切干大根、そこにセロリや人参など各種野菜が入って酢の風味が食欲をかきたてる。

 

続いてカツオのたたき。

ねぎとにんにくがたっぷり載って、市場で買った新鮮なカツオだからふわふわ、実に美味しい。

 

アボガドにおから、ポテトサラダにはトマトときゅうり。

野菜が続きメインは出汁の効いたこんにゃくすじ肉で、締めのご飯は家内特製のサムゲタン。

コクあって味わい優しくこれまた実に美味しい。

 

家内と二人で夕飯を食べつつ、わたしは若き20歳の頃の勘違いについて一人考えていた。

 

当時はまだバブルの余熱があってそれに依然人々があぶられているような時期であり、いまでは考え難いが主な情報源はテレビだけだった。

画像を通じ誰もが浮かれたように見え、東京でひとり暮らしするわたしはそれが真実なのだと思うしかなかった。

 

人生は謳歌するもの、猫も杓子もいいクルマに乗っていいもの食べて上から下まで派手に着飾りいいもの持つのが当たり前であり、そうでなければ気後れ覚え五体満足であっても何か大きな欠落感を抱かざるを得ない。

そんな風に誰もが時代にマウントされていた、といって過言ではないだろう。

 

だから大人は他の大人を真似てその気になって、それに倣って若者もはしゃぎ、見よう見まねでわたしも試してみたが、ああ若気の至り、青い実であるにもほどがあった。

 

たとえば、自由恋愛が持て囃された。

それが素晴らしいことであり、誰もがその甘美を享受すべきだろうといった時代風潮だった。

それでわたしもほんの少しばかりは頑張った。

 

しかし時を経て子を持つ親となり、友人もご近所さんも年頃の子を持つ親となり、自由と冠されたその内実について当時は大いに心得違いしていたのだと今では分かる。

 

自由という語は何らかの価値を表していたというより、どちらかと言えば閉店店じまい売出し大セールといったニュアンスに近い廉価で安っぽい煽り言葉に近いものであったと言えるだろう。

 

親となってまわりを見回せば明らか。

 

恋愛に関し自由な往来など存在し得ず、古くから今に至るまで連綿と世にはかなり多くの箱入り娘が存在しているのだった。

 

父親がまともな社会人であり、母親に良識があり、そんな両親から愛情注がれ高い教育を受け、習い事を通じ厳しい訓練も課され鍛えられ、親の背から学んだ人生観があって経済観念もしっかりしていて、自ずと無難で手堅い保守的な男性観が備わっている。

 

そんな女子がのこのこカジュアルな場に出てきてそこらで恋愛相手を見つける、というようなことはあり得ず、一見さんはおととおいでであり、偶然の出会いがあったとしてもお眼鏡に適うようなリスペクトの連鎖がなければ先へと進まず、あるいは、誰か信頼できる人物の介在やお墨付きが必要でそれらを欠いて若く貧乏で将来の見通しも定かではない男子がいくらガッツ出して頑張ってみても、そこに海路は開けない。

 

巷でよく聞く、出合って意気投合し、いちにのさんで男女の仲になってとりあえず生涯を誓い合うといったイージーさの出る幕はないので、だから自由恋愛の自由は、自由席の自由といった程度の意味でしかないということになる。

 

そんな場で日常繰り広げられるのかもしれない切った張ったや惚れた腫れたや捨てた捨てられたといった揉み合うような話は素人には手に負えず生傷絶えない類のものであるから、縁遠ければ縁遠いほど日常は平穏となる。

 

たった一人を伴侶として選び可能ならその人と生涯添い遂げるのが幸福とわたしは思う。

どの道添い遂げるのであるし苦労は若いときに済ませたほうがいいので、さっさと一緒になって長く人生を楽しむのが正解と言えるだろう。

 

そう親として考えるので、恋せよ息子、など囃すことなどあり得ない。

男子であれば他にやることがいくらでもあるはずである。

 

だから、イージーな場をぶらついて掘り出し物を探すより、ことの最初から信頼できる人を介して箱入りへと真っ直ぐアプローチするのが正しい、と言えるのではないだろうか。

そもそもそうでなければ、思い描くような意中の人とは出会えないというような話でもあるだろう。

 

実際、希少な不動産取引同様に、いいものは出回る前にすでに当事者で話がついているというのが世の習いというものである。

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2019年7月4日 息子の朝食 手作りサムゲタン

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2019年7月5日 息子の朝食 五島うどん&ゆげ焙煎所の珈琲