秋分の日は家内とぶらり出かける予定だったので、若い連中に留守を任せて家を出た。
わたしが33期で彼らは66期。
来客8名全員が後輩にあたった。
かわいい後輩に美味しいものを食べてもらいたい。
わたしの頭には西宮北口の名店「たけふく」が浮かんでいた。
昼はみんなに大盛りカツ丼を振る舞うよう、必ず卵はダブルにするよう息子に伝えメシ代を握らせた。
当初はクルマで遠出し食材を求める予定であったが、9時を回っての出発になったので行き先を近場に変更し電車に乗った。
台風の影響で強風が残っていたものの電車の運行は正常どおりだった。
まずは梅田でお茶することにして、ルクアのBills OSAKAを訪れた。
詰めて座らされるので、隣席が間近至近。
中年に差し掛かろうとする域の女性が二人向き合って、しかしやたらとその声に女子っぽさがまぶさてれていたから甲高くて耳に障った。
夫の悪口を言うでもなく子育ての愚痴を漏らすでもないので、ともに独り身なのだと察しがついた。
しきりに職場のババアの悪口を「ウケる、ウケる」と相槌を交えつつ言い合っているが、だんだん彼女らがその当のババアに見えてきて、鏡に向かって自身を罵っているかのような恐怖の光景がそこに出現することになった。
Billsの朝食は、パンケーキにせよブレッドにせよエッグにせよベーコンにせよチーズにせよ一口一口は美味しいものだった。
しかし中年にはカロリー過多であり塩分も強過ぎて、後味は複雑だった。
幸いコーヒーは美味しかったので、口直しにお代わりを頼み、映画でもみようと家内と話し合った。
たまにはホラー映画もいいのではないか。
そう思い『アス』について調べるがあいにく適する時間の劇場が見当たらない。
他に観たい映画はない。
こういうときはハズレがないから韓流に限る。
シネマート心斎橋で公開されている『ザ・ネゴシエーション』の座席を予約することにした。
ちょうど大丸心斎橋店が新装オープンとなったばかりであったので、映画の後はそこをぶらつけばいい。
ルクアで長男のリュックを選び、あれこれ夫婦で会話しつつ、しかし混み合う御堂筋線のなかでは息を潜め、心斎橋で降りた。
雨が降り始めていた。
二男に連絡すると梅田の串家物語にて皆で昼飯を食べることになったという。
西宮北口より梅田。
大阪男子の動きで言えば、それが順目なのだった。
映画館には中年女性の姿が目立った。
はじまる前に弁当を食べる御婦人連れの姿もあって、鑑賞のためのボルテージは最高潮といった様子であり、主役を追いかけるファンの集いの場とも見えた。
映画が始まってすぐ家内がわたしに囁いた。
「この映画、テレビで観たことがある」
わたしまで観た気分になってずっこけ興ざめたが、それでも韓流映画には力があって、家内とともに楽しめた。
映画館を出て、大丸心斎橋店に足を向けた。
目指すは地下2階のバルだった。
混み合っているはずだが、必ず席を取るぞと家内と励まし合い気合を入れた。
カウンターにゆったり座ってワインが飲める「セカサケ」がいい感じであったのでそこに居を定めることにした。
席が空けば教えてとソムリエに頼んだとき、気を利かせてくれたのかはたまたプレッシャーを感じたのか二人客がすぐに腰を上げてくれたので、まったく待つことなくわたしたちは席にありつくことができた。
メニューを睨んでいると他店の料理も全て持ち込み可だとソムリエが教えてくれた。
関西初出店だという「アルティザン・ドゥ・ラ・トリュフ・パリ」が真横にあったのでそこで料理を頼むことにした。
ラグビーワールドカップにちなんだ各国諸国の泡、赤、白とそれぞれ3杯ずつ家内と飲んで料理を味わった。
驚くほど美味しく、ソムリエがしてくれるお酒の説明が丁寧で興味深く夫婦揃って心安らぎ楽しめた。
最後はハイボールで締めた。
おいしい作り方をソムリエから家内が教えてもらい、実際、嘘みたいに美味しかったのでさらにわたしたちはおどろいて、すげえと賛辞を送った。
プロですからとソムリエは微笑した。
ほろ酔いになってぶらりフロアを歩き、次回来訪した際のプランを話し合いつつ、夕飯とする寿司をいくつか見繕った。
電車に揺られ家に帰って、手分けし軽く掃除し風呂も済ませ、用事完了となってテレビの前に集合した。
家内がラグビーの全試合を録画している。
この夜、観戦に選んだのは大激戦だったというフランス対アルゼンチン。
窓を開けると初秋の風が吹き込んで心地いい。
教わったとおりに作ったハイボールを飲んで寿司をつまむ。
これが夫婦団欒のキックオフとなった。
結局、ライブで中継されていたウェールズ対ジョージア戦も含め世界最高峰の対戦を二試合も観ることになった。