さくら夙川駅で降り、タクシーを探すが見当たらない。
雨のなか夙川駅まで歩くことにした。
途中、山手幹線で空車との表示あるタクシーが視界に入った。
道路脇で手を挙げ振ったが、知らぬ顔してタクシーは通り過ぎていった。
怖い人に見えたからではないか。
家内はそう言う。
わたし程度が怖い人に見えるなら、世は身の毛もよだつ惨劇の舞台。
至るところで恐怖が恐怖に出くわし震えて怯え、皆が皆、悲鳴を上げ逃げ惑わなければならないだろう。
夕刻、夙川駅のロータリーにはタクシーを待つ客で列ができていた。
順を待つこと10分ほど。
後部座席に乗り込んでベルロオジエまでと告げると、ああ、あの黒い店ねと運転手にはすぐ見当がついたようだった。
5分後には横付け、お代は770円。
店に入って家内と向かい合う。
設えよく清潔で店員さんはうやうやしい。
夜のコース料理が始まって、驚きの連続となった。
一品一品が凝りに凝っていてまったく手抜きがない。
料理に注ぐパッションとその職人魂にリスペクトの念を覚えた。
道順を調べる際ネットで検索し、コスパがいいといった口コミを見かけたが、コスパといった貧相な言葉で評価していい技量と接遇ではないだろう。
ここまでするのか、という料理を前に、分かったような言い回しはすべて不適切となる。
素晴らしい、単にそう言う以外、他にどんな言葉も見つからない。
聞けば今月で閉店になって京都河原町のグッドネイチャーステーションに移転するのだという。
鹿児島のカイノヤの推薦があって京阪の幹部らが食事に訪れ、トントン拍子で話が進んでオファーに繋がった。
京阪といえばその戦略部長が我らがオーアサ、33期。
ネットで調べると、四条に続いて来年は三条にも新たな京都の拠点が生まれることになるようだ。
オーアサが世界とつながる京都づくりに携わっている。
地の塩、世の光。
友だちがいい仕事をしている。
こんな嬉しいことはない。
着席して気づけばあっという間に3時間が経過していた。
その間、ずっと手厚くもてなされていた。
食事は美味しくワインも美味しく皆さんとても親切で実に居心地が良かった。
ほんとうにいい食事の時間を堪能でき心から感謝の気持ちが湧いて出た。
二人でしめて31,580円。
勘定を済ませて、店を出た。
すっかり雨は上がっていた。
腹ごなしも兼ね少し歩こうと駅に向かった。
10月に入っても蒸し暑く、秋という季節が失われてしまったような感もあるが、ここら夙川、苦楽園界隈は夜ともなると緑の香含んだ風がやわらかにそよいで気持ちがいい。
だから苦楽園の駅を通り越し夙川駅まで歩き、結局、さくら夙川駅まで歩くことになった。
話題は子らのことで占められて、家内と横並びになって歩きつつ、こんな写真もあるよと子らの小さかった頃の写真を見せ合った。
互いのiPhoneを覗き込みながら目を細め合う。
雨上がりの苦楽園から夙川。
親バカ二人のお通りであった。