一晩経つと何を話したのか明瞭には思い出せない。
してもしなくても大差ない会話というものがあって晩酌どきの夫婦の会話などその典型と言える。
夜9時をまわって二男が帰宅した。
が、リビングには上がって来ずそのまま外に飛び出していった。
夫婦揃ってグラスを片手に窓越しに移動した。
前の公園で自主トレをはじめた二男の姿に無言で見入る。
ひとしきり机に座った後、じっとしていられる息子ではない。
それは試験中であっても変わらない。
勉強は価値の上位にあるが決して最上位ではない。
だから賢いかどうかより先、男子であるから強いかどうかが肝心。
男子を授かったときから夫婦揃って思うことは同じだった。
アホでもバカでも可愛いけれど、弱ければ笑えない。
濃く深い夜陰のなか黒いウェアを纏った息子が右へ左へ力感たっぷりはじけるように動いて、明暗の差が足や腕の筋肉の隆起と躍動を際立たせた。
気づくと家内は夜食の支度に取りかかっていた。
昨晩を振り返ったとき浮かぶ言葉は何もない。
それら映像だけがくっきりと無音のまま頭を巡る。