芦屋での業務を終え新大阪に向かった。
家内が乗る新幹線は25番線に入ってくる。
ホームで待つが金曜夕刻、いつにも増して混み合っている。
階段脇のくぼみを見つけ退避し待った。
家内がホームに降り立つ瞬間を捉え、荷物の半分を引き受けた。
全部でスーツケース二個に紙袋二つ。
3泊4日を終えての荷物はめちゃくちゃ多い。
全方位から押し寄せる肉弾をかわしながら前へと進み、なんとか在来線に乗り換えることができた。
が、あいにく帰宅ラッシュの時刻と重なった。
荷物かさばり押し合いへし合いする密封空間は、そのままスーツケース内部のようなものであり、荷物の気持ちが痛いほどよく理解できた。
乗り切るコツは、心を無にすること。
なるほど、荷物は心など持ち合わせてはならないのだった。
家内が留守の間、もっぱら家を拠点にして過ごした。
いざというときに備え家においても仕事環境が整えてある。
電話もFAXもネット回線も日頃は無駄だが事務所に万一のことがあった場合に慌てずに済むから安心を担保するためのバックアップ環境と言えた。
アウェイかホームかで言えば、ホームど真ん中であるから家では心安らか仕事が捗り家事もこなせ、心理的にもバリアフリーで散歩がてら買物もできるので、消耗すること皆無といった日々であった。
家内が戻ったことで城は明け渡し、戦士は再び前線の砦に赴くことになる。
家内が新大阪のホームに降り立ってから30分。
家に到着した。
さっそく荷を開封し隣近所にみやげを届け、休む間もなく仕入れた食材で家内は夕飯の支度をはじめた。
もちろん顔合わせた当初から二万語の語りは止まない。
わたしはハイボールを飲みつつ、話に耳を傾け時折吹き出しながら出来上がった料理を順々に味見していく。
歴戦の目利きが食材を選び卓越のセンスで料理するからどれも美味しい。
たとえれば、作詞作曲こなして歌って踊ってギャグの質も高いエンターテイナーみたいなもの。
不在の時間があったなど嘘のよう。
いつのまにやら普段の日常が舞い戻っていた。