この日はヨガの帰り。
夕刻、家内が事務所に姿を見せた。
またも一緒に帰途についた。
毎回同様であるが、日によって趣きは異なる。
先日の土曜日は保護者会の帰り。
ややフォーマルな格好で、シックな色合いにアクセサリー類がほどよく映えた。
月曜は買い出しの帰りであるから、飾り気なしのすっとぼけたような出で立ちであったがそれもまた悪くない雰囲気であった。
続く火曜はハードなヨガの帰りであるから当然にカジュアル。
フランスで買ったというダウンジャケットがそのカジュアルを一段高みに押し上げていた。
そんな家内を横にわたしはいつものとおり無骨な装い。
仕事を終えて家に帰るのみ。
役目を終えた後なので誰にどう思われようが構いはしない。
前日の夕飯が魚だったのでこの日は肉を買うことにした。
ビッグビーンズに寄り上等な和牛ステーキを3枚も選んだのはクリスマスイブだからであった。
混み合う電車のなか家内に写真を見せた。
昼に長男と会話した際、彼はジムの更衣室にいた。
成果の証ということで鏡に映る上半身の写真を送ってくれたのだった。
研ぎ澄まされ磨きかかった息子のカラダを画面の中じっと見て、そしてわたしに目をやり見比べて家内は満足そうに笑った。
今朝二男を送り出すときもカラダ談義で盛り上がった。
弾力よくケツが跳ね上がり胸板厚く肩が隆起している。
そんな二男のカラダを夫婦して愛で褒めそやし、家内などその二男を指して抱かれたい男ナンバーワンだと言うのだからアホ丸出しであった。
長男も二男も肉体派。
これも小さな頃から高タンパクの食事を積み重ねてきたおかげ。
家内あってこそのことだろう。
電車を降り、学校帰りの友だち同士みたいにどうでもいいような会話を交わす。
子の幸せと自分の幸せならどちらを選ぶか。
二人とも答えは同じで、子の幸せが最優先。
理由も同じ。
もし子が幸せでなかったら、自分の幸せなどありはしない。
帰宅してすぐ家内は肉を焼き始め、わたしはワインを2つのグラスに注いだ。
JALで採用、そんな触れ込みを見てすぐ手に取った赤ワインであったが結構おいしい。
夕飯の支度が整うまでの間、宅急便が立て続き、その度わたしは階下に降り玄関先で荷物を受け取った。
クリスマスイブの業務をねぎらいドライバーにはみかんを2つずつ手渡した。
いよいよ肉が焼き上がりナイフとフォークも用意された。
もりもり食べるといった勢いでわたしは肉に向かっていったが、寄る年波。
蕩けるような官能体験は最初の数口だけで、後半は負担感が増して一枚食べるのにも難儀した。
ステーキと対峙するにはやはり若さが必要ということだろう。
家内はメロンの切り身を口直しにしながら、パクリパクリと肉を頬張っていった。
クリスマスイブの夜、わたしよりも家内の方がはるかに若く元気だということがステーキによって証された。
ステーキの後は、チーズ、生ハム、レバー燻製、冷奴といった小ネタが食卓に並べられた。
わたしにとって苛酷な長距離走を終えた後のクールダウンみたいなもの。
ようやく腰落ち着けての食事となった。
デザートにこみつを食べ、家内が台湾で買ってきた烏龍茶など飲んでいると二男が帰ってきた。
さっきサンタが部屋に何か置いていったみたいだ。
そう息子に伝えるが、それで息子が部屋に駆け上がるといったことは起こらず、彼はまっすぐ前の公園に向かいトレーニングをはじめた。
サンタに胸踊らせた幼少の頃の面影は、もはやどこにも見当たらない。
サンタなどいなくても欲しいものがあれば自分で何とかする。
がっちりとした体躯からそんな気概のようなものが伝わってきた。