未明に目が覚め、しかしすることがない。
ガソリンがまもなくエンプティとなることを思い出し、真っ暗な道をガソリンスタンドに向かった。
満タンにし戻ってまだたっぷり時間がある。
ひとり地元の神社に歩いて出かけ手を合わせた。
さあがんばろう。
自然とそんな気持ちが湧き上がってきたので、肩にでも手を置かれ励まされたように感じた。
正月なのに寒くない。
ほどよい冷気が清々しく神社への往復で意識が澄んで、さあがんばろうとの思いが胸にくっきりと刻印された。
朝5時半。
家族を起こす。
松山行きANAの離陸は7時半。
6時半までには家を出なければならない。
当初、家族4人で別の旅行を予定していた。
しかし休み明けすぐ二男の学校では実力テストが行われ、よく考えれば彼はいよいよ受験学年に差し掛かり、部活でも大事な試合が幾つも控えている。
のんびり旅行している場合ではないと親子で意見が合致し、結局、最初の予定は家内と長男だけの小旅行へと姿を変えた。
真っ暗な道を走って約15分。
時刻はちょうど6時半。
伊丹空港で二人を降ろした。
母と息子の松山行脚。
こんな旅行もなかなかいい。
腹に宿し、以来ずっと愛して19年あまり。
目まぐるしいほど数多くのシーンが駆け抜けて、いまそれなりお似合いの母と息子、相互認め合う仲へと到達した。
上京してから最初の正月。
二人にとって区切りよく、ぶらり小都市を歩いて温泉につかって寿司を食べるといった何の趣向もない旅ではあっても、双方にとってかなりいい思い出になることは間違いない。
だから送り出す側のわたしもどんな旅になるのだろうと胸踊る。
家へと取って返し二男を送り出し、わたしは事務所に向かった。
事務所から地の神社への道中、横丁のお寺の掲示に墨書きがあって目が留まった。
たった三文字、「等身大」とだけ素っ気なく記されている。
そんな文字との出合いも何かの縁。
知り尽くしているとの自負はあるが、改めてその三文字をわたしは胸に刻むことにした。
正月も三日目となれば参拝客もはけるのだろう。
無人の神社で心静め、柏手を高らか打ち鳴らし深々と頭を下げた。
念ずることは家族の無事安全。
他のすべてはおまけのようなもの。
肝心要なことはこれ以外にあり得ない。
家族が元気であればそれでよく、それだけでわたしは絶対的に幸せでいられる。
神社を後にし、続いては事務所近くのジムに寄り、初トレに勤しんだ。
筋トレの合間、合間、家内が送って寄越す写メを眺める。
はじめて訪れた地である松山に長男が強く惹かれていく様子が写真から伝わってくる。
そう、一度でも訪れれば誰だって松山が好きになる。
そして、わたしは自身に向かい合う。
わたしはわたし。
自分のペースで倦まず弛まず。
さあ、がんばろう。
筋トレしながらそんな思いを頭のなかでヘビロテし、自分自身を睨めつけた。