仕事後、家内に連れられ二日ぶりにジムで汗を流した。
家へと帰る途中、コーヨーに寄り肉をはじめ野菜や豆腐など鍋の材料を買い求める。
ダイエットには鍋がいい。
家内がそう言うから従うが、家内がいくらわたしのダイエットに関心を持ったところで当の本人が無関心であるから成果は出ない。
早くそうと気づいて諦めてほしいが、懸命に野菜を切る家内の横顔を見るととてもそんなことは言い出せない。
夫婦横並び、鍋をつつきつつ家内の二万語に耳を傾ける。
この日、家内はかつてのママ友と連絡を取り合った。
子らが園児から小学校低学年だった頃、頻繁に行き来があった。
ご主人の赴任期間が終わって東京に越していったが、いまも交流が続いている。
互い近況を報せる写真を送り合って、うちの子らの変貌ぶりに女子母であるママ友は大いに驚いた。
女子と男子では大違い。
りんごのほっぺの幼い二人が、いきなり、ゴツっとした面構えに変われば言葉失っても仕方ない。
自転車の後ろでガンダーラと歌っていたのがウソのよう。
ママ友がそう言わなければ二男についてのそのシーンは、わたしたちの記憶から失われたままであっただろう。
夫婦でスパークリングを注ぎ合いながら、そのシーンを頭に甦らせる。
小さくぷくぷくしていて、少しおバカだった二男が二人のもとに戻ってくる。
そう確かに、アホのように彼はガンダーラ、ガンダーラとだけ繰り返し舌っ足らずに歌っていた。
その熱唱に夫婦してしばし耳を傾ける。
そう言えば、長男も二男も西遊記が大好きだった。
長男など中学入試が終われば西遊記を好きなだけ観ると言っていたくらい。
わたしにとっても思い入れのある作品である。
あれは小学校3年のとき。
日曜の夜8時と言えばちょうど風呂から帰ってくる時間。
いまのイッテQの枠で世紀の名作が放送されはじめ、以来、単純な勧善懲悪では割り切れない愛に満ちたその世界に魅了された。
当時わたしは子どもだったのでまさか自分の子どもまで西遊記を愛することになるど夢にも思わなかった。
夫婦で西遊記について懐かしみ、晩酌のBGMはジャズからゴダイゴに代わり、わたしは当分、通勤時やジムでゴダイゴを聴き返すことになるだろう。
ところで、その長男。
入試が終われば西遊記ばかり観ると言っていたが、結局ひとつも観なかった。
辛くしんどい入試の最終地点、西遊記を回想することが彼にとって安らぎであり癒やしであったのだろう。
名作が持つ力は途方もない。