当日に顔を出すことはできないが前日なら少しは時間があった。
午後、頃合いを見計らい実家に寄った。
以前は花を持参していたが、母の好物が寿司と分かってからはそれ以外の選択肢はなかった。
誕生日おめでとう、そう言って玄関先で母に特上2つを手渡しすぐに実家を後にした。
今夜、父と母が二人でささやか寿司を食べる。
そんなシーンを思い浮かべつつ急ぎ仕事に戻った。
まるで春。
汗ばむほどの陽気のなか歩いて、気づいた。
すでに2月も半ば。
もう春なのだった。
この調子で行くとたちまちGWとなってお盆がきてクリスマスソングが街に流れて正月になる。
いくらなんでも早すぎる。
事務所に戻ると家内の姿があった。
仕事のおつかいの道中、きじ歯科で診察を受け院長にチョコを渡してきた帰りだという。
夜の会食がキャンセルになったのでちょうど良かった。
キリのいいところで仕事を切り上げ、家内を誘って近所の居酒屋の暖簾をくぐった。
馴染みの店であり、部活後に中高生が連れ立って駄菓子屋に寄るようなものであった。
わたしは熱燗で家内はハイボール。
料理は家内が注文していった。
最初にカキフライと刺し身盛合せを頼み、イカがことのほか美味しかったので、イカの刺し身とスルメイカの天ぷらを追加しクエ鍋をメインにし、その出汁でとった雑炊でしめた。
二男のための手土産は定番の海鮮丼大盛り。
この日、家内との会話は受験のことに終始した。
息子らの受験の作戦会議を何度も経てきた場所でもあるから、カウンターに腰掛ければ数々の局面が浮かんでおのずと当時の話になっていく。
しかもいま二人揃って漫画『二月の勝者』を愛読中であるからなおさらのことであった。
緊迫の場面を回想し、初心に返る。
なんと言っても大学受験が大きな区切り。
この一年、サポート役として家内が最善を尽くすことは間違いない。
そして一年などあっという間に過ぎ次の春が訪れる。
母としての役目を全うし、ようやく肩の荷降りることになる家内を今度は男子3人で精一杯労わなければならないだろう。
あと少しで登りは終わり。
なだらか平坦な道を鼻歌まじり楽しんで歩く家内の姿がありありと目に浮かぶ。

