朝食はボイルしたカニと豚しゃぶ。
それらを平らげ二男は朝6時過ぎには家を出た。
なんて真面目な家族なのだろう。
そう話し合いながらわたしたち夫婦は三連休最終日も朝イチでジムに向かった。
空はうららか晴れ渡り、街の緑が微風にそよぐ。
絶好のお参り日和だった。
ジムを終え、まずは清荒神に向けクルマを走らせた。
おすすめの音楽を流し合いながらのドライブが若者のデートみたいで楽しい。
清荒神に続いては門戸厄神。
そして西宮神社。
これがいつものお参りコース。
心清められて後、昼食。
芦屋ラポルテにクルマを停め、駅前のラッフィナートを覗いた。
空席あって夫婦向かいあって腰掛けた。
隣席には信じられないくらいの美人女子が二人。
身なりよくまるで雑誌から抜け出してきたみたい。
下界で目にする美人とはモノが異なる。
清荒神からの帰途、街行くタカラジェンヌをお二方ほど見かけて息を呑んだが、得体が知れぬ分、隣席の芦屋美人の方がはるかに遠い存在に感じられた。
たった4000ユーロ、お買い得だった。
そんなカバンの話に続いて結婚談義が美人女子の間で繰り広げられた。
聞くともなし耳にし、確信したのはただひとつ。
われら下々の民などおとといおいで。
この域の女子と渡り合うなど土台不可能。
彼女らが求めるものなど何一つ供給できず、端から品揃えがなく手に入れる算段もつかない。
言葉交わさずとも家内は同意見。
目の表情だけでそうと分かった。
映画『パラサイト』では「臭い」が人の格差を象徴した。
何がどうなど理屈以前の話。
歴然とした差は生理的な次元でしか語れない。
もちろんうちの家内については、着るもの身につけているもので彼女らに拮抗はしていた。
とは言え、うちの家内は一般人。
氏素性からして一般人で言葉も立ち振る舞いも一般人。
だからはるかに親しみやすい。
ああ、愛すべきは一般人。
わたしは心からそう思った。
わたしたちの話題は夕飯の食材について。
昼を食べながらでも夕飯について語り合う。
子らのことを除けば、いつだって食べ物が話題の中心なのだった。
魚介と果物は昨日買ったので、今日は野菜と肉を買おう。
肉とくれば山垣畜産。
そうと決まれば善は急げ。
わたしたちは分不相応な場をさっさと後にしアクタへとクルマを走らせた。
アクタのコープで幾人もの素朴な女子を見かけ、心底落ち着いた。
息子らの嫁はあんな感じでなくてはならないだろう。
家内と固く意見が一致した。
二男の帰りが早かったのでこの日の夕飯はことのほか豪勢なものとなった。
前菜は蒸し牡蠣。
前日、マルホウの若い調理師に教わったとおりのやり方で家内が作った。
二男はその味を絶賛することになった。
メインとして肉が焼かれ、本場御幸森のキムチが添えられ、味見がてら二男用にすき焼きも用意された。
そして、シメは前日姫路で買って帰った一杯の松葉がに。
カニでとった出汁が世界最強。
カニ身を味わった後、押麦の入った雑炊がデザートとなった。
美食の三要素は、苦味と匂いと共感。
前夜のNHKスペシャルについてわたしは二男に語り、この日の食材の来歴について説明を施した。
わたしたちは山陽百貨店で適当に食材を選んだ訳ではなかった。
地下食にあるコーヒーカウンターでお茶しつつ、家内は幾人かのおばさんに声をかけた。
何を買いましたか、おすすめは何ですか。
店員さんに聞くのではなく、買物客に聞く。
それがポイント。
そうやって情報が集められ、吟味精選されたものが食卓に並ぶのである。
今後、二男は家内が作ったものをもっと噛み締め味わって食べることになるだろう。
たっぷり食べて体力が復活したのだろう。
二男は夕飯後、もうひと勉強してくると言って外へと出かけていった。