業務を終え夕刻、家内が横付けしたクルマの助手席に乗り込んだ。
目的地は御幸森。
前夜、長男が仲間と食事作りに勤しむ写真を目にしたばかり。
彼らへの陣中見舞いとして焼肉セットを送ることにしたのだった。
息子と仲良くしてくれるだけで親として嬉しい。
せめてもの感謝の気持ちは、思い出に残るものでかつお腹の膨れるものであるべきだろう。
美味しいキムチを得るなら御幸森をおいて他になくそこで肉も手に入るから、目的地は自動的に決まったようなものだった。
お好み焼き風月桃谷店の駐車場にクルマを停め、モダン焼き、お好み焼き、焼きそばなど計4点を店先で頼んで人もまばらな御幸森の商店街に分け入った。
まず目に飛び込んできたのが、どっさりと積まれた箱詰のマスク。
中国製のマスクがあちこちに出回り始めている。
なかには粗悪なものもあるとの噂を耳にするが、普通のマスクと何も変わらないとの声も多い。
もし万一粗悪だったとしても、まあないよりはマシ。
欠品相次ぐ事態より状況は改善されたと見ていいのだろう。
数ある店のなか老舗人気店をいくつか選んで白菜、大根、きゅうり、山芋といったキムチを買い、これだけでかなりの荷物になった。
店違いのキムチをブレンドすると更に味が増す。
自ずと買い求める量はいや増しになるのだった。
続いて肉。
精肉店で色つやのいい和牛三角バラ1,500g、和牛カルビ500gを選んだ。
2kgもあれば、4,5人の食卓に添えるのにまあ不足はないだろう。
クルマに戻って風月でお好み焼きを受け取り、用事も済んだのでさっさと帰宅の途についた。
家に着き買った品を冷凍庫に投入しひとまず任務完了。
久々にビールで乾杯。
夫婦で向き合ってお好み焼きを食べ、はたと気づいた。
昨晩のタコ焼きが実は今日の行動の引き金になっている。
前夜タコ焼きを食べそれが美味しく、それで潜在意識のなか風月にスポットライトが当たったに違いなかった。
なにしろ、同じソースつながり。
風月と言えばナニワB級グルメの雄であり、桃谷店がいちばんおいしい。
風月を照らす光が先行し、その桃谷店に導かれるようにして隣接する御幸森が浮かんだという順だったはずなのだ。
なるほど、注意していないと根本的な動機が別の何かに置き換わってかき消える。
前夜、インターハイの中止が正式に決まった。
6年間の集大成となるはずが、5年の尻切れトンボで終わるから二男の胸にポッカリと穴があく。
親としてできることはないが彼の好物のひとつである風月のお好み焼きならいつでも買える。
それで多少なり何かが癒えればとわたしたちは無意識のうち願ったのだった。
それが文字どおりいつの間にやら間が抜けて話が短絡化してしまった。
肉が先でお好み焼きが後なのではなくお好み焼きが先で肉が後。
この違いはかなり大きい。
うっかりそもそもの目的を忘れてしまうところであった。