忙しい日が続くと木曜に疲労のピークがくる。
放置すれば金曜は台無しになり翌週にも響く。
だから六甲道で業務を終えたとき、半時間でもいいからと灘温泉に飛び込んだ。
ぬるめの温泉とひんやりとした源泉に交互につかり、これで下ごしらえは完了。
事務所に戻って着替え、近くのマッサージ屋で仕上げにかかった。
みっちり一時間、カラダを揉んでもらって復活の時を迎えた。
人心地ついて事務所に戻る道中。
商店街に差し掛かった。
香ばしい匂いがあたりに漂う。
ちょうど焼き上がったばかりだった。
足を止め、1尾買い求めた。
花よりウナギ。
家内の喜ぶ顔が目に浮かんだ。
家内は家で四六時中料理をこしらえている。
息子にたらふく食べさせているのに、作っただけでお腹が満たされるのか、このところ家内が痩せ気味に見える。
こんなときは良質のタンパク質が不可欠。
うなぎなど絶好の品と言えるだろう。
事務所で残務を終えて、帰途につく。
手土産を携えまっすぐ家に帰ろうと思うが、チャージが必要。
いつものとおり、ちょいと寄り道することにした。
行き先はジョニーのからあげ。
誰かの会話でそんな店名が挙がっていたのが耳に残っていた。
たまに行き来する通りにその名を見つけ、この日、吸い寄せられたのだった。
このあたりは居酒屋激戦区。
生まれてはじめてその店を訪れ、おそらくこれで最後になった。
いよいよ正真正銘の帰途。
まさかと思うほど混み合う電車に揺られていると、シャッフルで流す音楽が『北の国から』のテーマになった。
その瞬間、身を覆っていたむさ苦しさが一気に退いた。
2010年、息子が小4と小2のときの秋の連休。
家族で北海道を訪れた。
層雲峡で温泉に入った後、一路、小樽運河へとクルマを走らせた。
ちょうど北の大地に西陽が差す時間帯。
徹底的に『北の国から』のテーマをヘビロテした。
当時の思い出が清涼な空気と光とともにこの曲に刻み込まれて、家族共有のものになっている。
わたしは運転席、家内が助手席、後部座席に息子たち。
家族だけの空間がそこにはあった。
人でひしめくJR神戸線の一隅に北の大地が出現し、風に吹かれて光に包まれ、わたしは家族を想ってそのときの幸福感にひたった。
家族といろいろな思い出を作ってきた。
やはりそれは正しいことだった。