明け方は肌寒かったが、日が差し始めてたちまち火照った。
直射の熱を避けるため頭にタオルを巻いて武庫川を走ること一時間。
走り終えて久々、家で朝食をとった。
生エビの醤油漬け、テールスープ、ひじきのおひたし、鶏肉となすの煮物。
おかずは多量でご飯は少量。
中年にとって理想的な配分と言えた。
模試を終日受ける二男を送り出してから出発。
助手席に家内を乗せ京都へとクルマを走らせた。
まっさきに、にし田に向かった。
この季節、出遅れれば人気の部位から売り切れる。
特上のロース、ハラミ、カルビを各500gずつ、加えてテッチャン、ミノ、ウルテ、センマイといったホルモン系を一揃い300gずつ買うと2万円になるが、これで2回は家族で焼肉の宴を楽しめる。
外食するよりはるかに安くつき、かつ、にし田より美味い肉を出す店などついぞ知らない。
京都まで足を運ばねばならない理由がそこにあった。
この日最大の任務を果たし終え、わたしたちは市街に向かった。
肉が傷まぬよう保冷バッグに密封し、直射日光を避けるため市営の地下駐車場にクルマを停めた。
そして、散策。
地下からあがったところにトーヨーキッチンがあり、そこで豪華な家具などみて目の肥やしとした。
昼食は、はふう。
注文を家内に任せ、ビーフシチューとビフカツ定食を二人で分けた。
ぶらり歩いて、続いてはかき氷。
京都に来れば、氷を欠かさない。
巨大な氷を2つ頼んで、これも定食同様、二人で分けた。
これで熱暑の京都もなんのその。
歩きに歩いて一保堂で新茶を買い、加藤順で京漬物を買い、閑散とした街を抜け河原町に入るとそこは大勢の人出で賑わっていた。
目指すは錦市場の京都有次。
料理人なら誰であれ足が向く。
この日家内は手持鍋を選んで、名入れをしてもらった。
後はお米を残すのみ。
クルマに戻って西陣にある大米米穀店を訪れ、おすすめの米を2種5kgずつ買い求めて家路に就いた。
行きは「冬のソナタ」のサントラを静かに聴いたが、帰りに家内が流したのはBLACKPINKのメドレー。
充実の買物を終え気持ちが華やいでいたのだろう。
家に着くまでの道中、曲に合わせて家内は小さく踊り続けた。
家で用事しつつ、二男の帰りを待つ。
手が空いたので、二人で『よくおごってくれるお姉さん』を見始めた。
家内のソウル在住の友人が勧めてくれたドラマであった。
2018年、韓国で最も人気を集めたドラマであり、放送が始めるとOLが一斉に街から姿を消した。
主人公は35歳の独身OL。
母親は小うるさく、携わる仕事の見栄えはいいが勤めるのは楽ではない。
ああ、現実は重苦しい。
こんなとき、この状況を一変させるような男子が現れたら、どんなに素敵なことだろう。
視聴者ともどもそう願望するから、そんな男子が自転車に乗って姿を現した後、こぞって夢中になるのは当然の話であった。
置かれた現実からひととき離れて夢に浸れる。
ドラマを注視したOLらの気持ちに共感を覚えドラマに感情移入していると、二男がリビングに現れた。
うちにおいては彼こそが視線を注ぐべき大スター。
ドラマを途中で放り出し、皆で手分けし支度に掛かり、ベランダにて焼肉の宴が始まった。
やはり、にし田の肉は、赤身も白身もずば抜けて美味しかった。
家族で声を揃えて絶賛し、ぱくついて、息子はジンジャエール、わたしたちは赤ワインを空けてビールを注ぎ合いひとときこの現実を楽しんだ。