京都での業務を終え、おうすの里で梅干しを見繕った。
つぶれ梅がお買い得。
弁当に入れる際、家内は梅干しを潰してご飯に馴染ませる。
だから潰れていて好都合。
それで安いのだから立ち寄った際はまとめて買い求めることになる。
家にいったん寄ってシャワーを浴びて、明石に着いたのが午後5時半過ぎ。
家内もまもなく現れた。
この日、家内には事務所の手伝いで大阪市内を回ってもらっていた。
各所で苦心したとの報告を家内から受けているうち到着。
タクシーで5分ほど。
浦正鮨をはじめて訪れた。
カウンターに腰掛けて明石浦コースを夫婦で堪能する時間が始まった。
明石の昼網で獲れた魚が大半で、そこに由良のウニなど近隣漁港の新鮮どころが仲間に加わった。
鮮度がいいと身に糖が含まれて、口に含むとほのかに甘みが広がって実に美味しい。
それに、穴子の薄造りや鱧の柳川鍋など生まれて初めて拝んだ品もあって、食の印象は強く濃くなるばかりであった。
その感慨に促されてお酒も進んだ。
結局、ビール2本を皮切りに、家内は白ワインに移り、わたしは八海山と獺祭を二合ずつ飲み干した。
ネタと技量が素晴らしい。
板前さんに賛辞を送って、店を後にした。
腹ごなしに駅まで歩く。
海が間近に広がる。
その海に向かって吹く風がほどよく冷涼。
歩くことが気持ちいい。
ああ、気持ちいい。
わたしがそう言うと、「実は」と家内が切り出した。
前夜現れた読売新聞の販売員のおばさんが、今朝も家にやってきた。
朝日新聞との契約が切れる2年先、半年だけでいいので読売新聞購読を契約していただけないでしょうか。
そう懇願されたという。
よほどノルマがきついのだろうか。
家内は情にほだされた。
契約するなら2年先より今すぐにしてあげた方がいいに違いない。
だから家内はこう言った。
では、半年だけ。
8月から読売新聞を配達してください。
夜風に吹かれて話しつつ家内はわたしの反応を注意深く窺っていたが、家内の決定に異論などなかった。
家内がよければすべてよし、である。
家内の気持ちがとてもよく理解できたし、そのおばさんの様子を思ってわたしの胸に生じていた痛みもそれで和らいだ。
新快速に乗れば家まであっという間。
小学生の連れ同士がするみたいに、どこの寿司がいちばん美味しいか、そんな話をしているうち、家に着いた。
たっぷりお酒を飲んだので眠く、早めに寝支度していると、二男が帰宅しまっすぐわたしの自室へと駆け上がってきた。
模試の結果が出たという。
一昨年の今頃、長男も同じようにやってきた。
そのときの様子を懐かしみながら、二男の報告を受けた。
先日の河合塾の記述と同様、駿台の記述もかなりの出来栄え。
英数が素晴らしく特に数学が抜きん出ている。
河合、駿台と立て続けに好結果が出たから、実力とみていいのだろう。
校内順位も素晴らしい。
33期で言えば定光くんと高安くんの次と言った話だろう。
写メを取り、その場で長男に送るとすぐに返信があった。
すげえ。
バケモノ。
そのメッセージをみて二男はさらりと言った。
もっと凄い奴らが塾にわんさといる。
彼らこそバケモノ。
その筆頭格が北野高校のナンバーワン。
そのバケモノMAXは京都大学を目指しているが東京大学であっても余裕で合格するだろう。
完璧すぎて誰も太刀打ちできない。
二男の話を聞きつつ、わたしは嬉しくなってきた。
そんな男とクラスメイトになり言葉を交わす仲になっただけでも塾に行った値打ちがあったというものだろう。
あとは油断することなく他の科目も駆け足しで仕上げていこう。
そう二男に話しつつ、心中では思う。
カラダが丈夫で元気ならそれが何より。
模試の結果などより階段を駆け上がってわたしの元にやってきてくれたことの方がはるかに嬉しかった。
子がいてくれるだけで幸せ。
だから高望みなど滅相もないことである。
半年後、どこか大学と縁があり無事に巣立ってくれればそれでもう何も言うことはない。