豊津駅で降りたのは生まれて始めてのことだった。
同じ大阪であっても知らぬ地を歩くと新鮮な気持ちになる。
きょろきょろとあたりを見回し歩きながら、J-WAVEを聴く。
交通情報に続いて天気概況が伝えられた。
日中は曇り空に覆われ、夜になると冷え込む。
寒暖差が大きいからお気をつけください。
週末はかなり気温が下がるので、服装にご注意を。
そんな話を耳にして、彼の地の光景と空気感がありありと浮かび、そこで暮らす長男のことを思った。
「元気か」と長男にメッセージを送ると、「元気です」と即座返信が届いた。
実に歯切れがいい。
その短い言葉に元気さが凝縮されているように思えた。
息子の人生の分だけわたしの人生も膨らみを増す。
その喜びを見知らぬ地の路上で噛み締めた。
業務を終え、事務所で仕事を手伝う家内に連絡を入れた。
意見一致し、梅田で待ち合わせることにした。
ルクア梅田にわたしが先に着き、人気店コウハクの列に並んだ。
安くて美味しいからみんな長居するのだろう。
列がなかなか進まない。
40分ほど待ったところで家内が現れた。
その頃にはさすがに列も進んで、わたしたちが次。
ではあるが、そこからが長く、さらに15分も待つことになった。
だからその分、ワインが美味しい。
スパークリングから始め、店名どおりワインを赤白と飲み、料理を食べつつグラスで計10杯ほどは飲んだだろうか。
会計の伝票をみてその安さに家内は驚いた。
こんな夕飯もなかなかいい、また来ようと話し合いつつ帰途につき、大阪駅で乗った電車がその場でいきなり運行取りやめとなった。
北伊丹でたったいま「接触事故」があったのだという。
このところ頻発している。
ホームの騒然が世相を如実に物語っていた。
JRを使うのを諦め、わたしたちは阪神電車の梅田駅に向かった。
夜気に混ざる街の賑わいを肌に感じつつ歩き、そこに冬の匂いを嗅ぎとった。
冬と言えば家族の団欒。
外は寒いが中は暖か。
心温まるような家族との光景が幾つも浮かんで思った。
寒さも一興。
見慣れた街路を女房と歩くだけで趣き深い。