京都からの帰途、大和西大寺を経由した。
時間調整のため駅構内の売店街をぶらついていると、焼き芋と目が合った。
熊本産シルクスイートという銘柄を写真に撮り、「要る?」と家内に写メを送ってみた。
「オーマイガー!」と最大限の賛意を示す返信がすぐ届いたので2つ買い求めた。
なんば駅で乗り換えの際、自身を労った。
駅構内に立ち飲み屋が2軒。
この日は道頓堀麦酒スタンドを選びそのカウンターにしばし佇んだ。
ほどよくほどけて後、帰途についた。
道中、名店たこやを覗くと、家内の好きな生牡蠣と刺身盛りがちょうどひとつずつ残っていたのでこれ幸いと包んでもらった。
週末金曜。
美味しい肴を家内と分け合ってワインでも飲もうと家路を急ぐ。
が、塚本駅で突如電車が停まった。
立花駅付近で線路に人が侵入したのだという。
うっかりしたところで線路内などに迷い込むことはない。
どこの誰かは知らないが、死を覚悟してのことなのだろう。
それにしても、このところ鉄道自殺が頻発している。
ただ事ではない。
毎日誰かが電車に飛び込み、貴重な命を木っ端微塵に粉砕されて、ダイヤが乱れる。
オギャーと生まれて祝福されて、その末路が五感遮断したくなるほどの凄惨となれば、居た堪れない。
どんなに追い込まれたとしても、何もそんな死に方を選ばなくてもいいではないか。
世間は忙しくダイヤの乱れに翻弄されて、「接触事故」の言葉の奥に潜む真実について省みるいとまもない。
なんておぞましい世の中なのだと悲しい気持ちにもなるが、それも一瞬。
わたしも世間と同様。
このところ続く接触事故についてわずか考えただけで、まもなく頭の中は手にする刺身を傷めてはならないという切迫に取って変わった。
JRで帰ることは諦め、塚本駅から姫島駅まで急いで歩き阪神電車に乗り換えた。
阪神電車はいたって平穏。
枕木を渡る電車の音と振動が心地よく、一日の労がそれだけで癒えていった。
まもなく家というところ。
十一屋でちょっとした白ワインを2本選んで持ち帰った。
家内が夕飯の支度をする間、わたしは風呂に入って弛緩のひとときを過ごした。
この夜、クナイプのバスソルトはラベンダー。
湯温と香りで芯から心身がほぐれた。
そしていつもと同様、夕飯が美味しく、買ったワインも実に美味しく、家内も大喜びでだからわたしも喜んだ。
ただ、笑顔の奥の奥、名状し難い感情が意識の端に微か存在するのを察知した。
幸せ過ぎて怖い。
そうわたしは思ったのかもしれなかった。