PayPayだといろいろ得する。
家内がそう言うから互いのiPhoneにアプリをインストールした。
美味しいと噂のイタリアンがあって、PayPayだと25%の割引がある。
家内がそう言うから、早速使ってみようとなって夕刻二人していそいそと出かけた。
奥の席に向かい合って腰掛け、白ワインで乾杯した。
家内が料理について店員さんに質問し注文していく。
最近はじめたシルクヨガの話から英会話レッスンの話となって、やがていつものとおり家内の話は子らの近況に行き着いた。
料理おいしく、楽しく飲んで語らった。
ひとつ間を空けて家族連れがテーブルを囲んでいた。
ちびっ子の男女はかわいらしく上品で小学生低学年と見えた。
それでハリーポッターの原書の話などを姉弟でしているから頭もいいのだろう。
奥さんはきれいな顔立ち、一方、ご主人をみると線は細く粒も小さいといった感じだったが、その風貌からして高学歴のインテリであることは間違いのないことだった。
つまり美貌と知能が等価で結びつき誕生したここら界隈の典型家族と言え、子らは双方ともまるで祝福されたかのように両親のいいところを受け継いだ。
このまま順調に伸びて育ってここら優秀家族の典型として姉は神戸女学院、弟は甲陽学院に行くのだろう。
われら下々の民からすれば眩しいとも言えるほどの上流の家族。
小学低学年の頃。
イタリアンといった食べ物の存在さえわたしは知らず、お好み焼き屋で少年ジャンプを手にするのがせいぜいだった。
うちの子らにしても同様。
親戚中見回しても、幼少期からイタリアン食べて原書を読むといった階層の者は見当たらない。
彼我の差を意識するにつれ、ひとつ空いたスペースに高低差さえあるように感じられた。
で、食べ終わって会計。
PayPayを使うの始めてなんだよね、と照れたようにわたしは言って携帯を取り出したが、店員が申し訳なさそうに言った。
うちは、現金だけなんです。
PayPayが使えるって聞いたんだけど、とここでごねるほどは下ではない。
精一杯の矜恃をもって涼しげに、わたしはなけなしの諭吉一枚を差し出した。