金曜夜。
ジムからの帰途、ひとり町中の道をぶらり歩いた。
クリスマスが近づき、ささやかながらいたる所に電飾の光が灯っている。
自然と優しい気持ちになっていくから不思議なものである。
瀟洒な家があって目を引いて、昔の記憶が蘇った。
借家住まいだった頃のこと。
一時期、ウォーキングを日課にしていたことがあった。
家内と地元の街路を毎夜練り歩いた。
家内は大きな家を目にすると立ち止まり、そのたび間口を歩幅で測った。
そして、うちの2倍だ3倍だと言って、何が嬉しいのかそれではしゃいだ。
男子は仕事で女子は家。
それが人生に実感をもたらす。
そう先輩に教えられるまで、家というものにどれほど強い憧れを女房が持っているのかわたしは全く理解していなかった。
見映えのする家を不審者さながら注視していた頃の家内の姿を思い出し、家内が抱く今の家への深い愛着を思った。
思えばこれまでいろいろな道を経てきた。
そんな感慨にひたっていたから、家についてもすぐには入らず外から家の灯をしばらく眺めた。
まだまだ道の途上。
人生に実感をもたらすものは他にもたくさんあるに違いない。
夫婦で異国をのんびり巡って、大いに笑っておいしいものを食べ歩く。
視線の向こうにそんな像が浮かんで、実感を伴った。
近場を一緒にうろついたウォーキングの頃は遠い昔に過ぎ去って、次なる憧れは互い共有のものであるように思えた。