おいしいものを食べると涙腺が緩む。
この日、家内が作ってくれた辛味のスープが絶品だった。
卵と各種野菜が投入されて辛さがほどよく和らいで、肉とタコが食べごたえを生み、一匙すくうごとふんだんな滋味が身中に取り込まれていくのが分かって、その度に食べる手が止まった。
ああ、こんなおいしいものをもっと食べてもらいたかった。
苦しくも願うような気持ちになって、だからただただ切なく涙が頬を伝うということになる。
電話で話したのはいつだったか。
ごく最近の履歴のなかには記録がないので、過去の通話記録をこの日ソフトバンクに請求した。
いつ、何時何分、電話で話したのか。
思い出につながるすべてをかき集めないと気が済まない。
事務所を移転し、実家が以前よりはるかに近くなった。
さあ、これからという矢先。
思いは行き先を失ったが、ふと気づいて確信した。
血を分けた者すべてが幸せになるのであれば同じこと。
だから、まずは家族でおいしいものを食べよう。
そう心がけるが胸が潰れて涙が止まらない。