帰宅すると家内はリトアニアの女性と話していた。
オンライン英会話を始めて一年ほど経過するだろうか。
世界各国の講師と話すことで家内の関心領域はこの一年でぐんと広がった。
昔なら素通りしていた国際ニュースにも注意深く目を向け、ただでさえ豊富な話題が世界大で増している。
英語が上達し、附随してコミュ力も強化されかつ物識りになった。
なるほど二男に対してもしきりに英会話を勧める訳である。
ちなみに長男は免許皆伝。
前記した3点すべてで家内を上回っているから、家内は長男に対しては何も言わない。
夕飯を待ちながら、わたしは家内のオンライン英会話に耳を傾けた。
特殊な暑さの日本であるからリトアニアの選手はたいへんだろう。
そうねぎらう家内に対し、相手は言った。
涼しいといったイメージかもしれないがリトアニアの気温は7月だと40℃近くになる。
日本だけが暑い訳ではない。
みな同じ条件で戦っているのだからリトアニアの選手は気候を言い訳にできない。
オリンピックの話が挨拶代わりとなって、続いてヨガが俎上に載せられた。
互い共通の趣味とのことで盛り上がる。
身体能力の向上、ストレスの解消などヨガの効用について意見が交換されて、傍で聞いて家内の引き出しの多さにわたしは改めて感心させられた。
多芸多才な家内が内包する価値は実はかなりのもので、その気になれば彼女自身を商材に転換することも可能だろう。
単に喋るだけで面白く、料理は美味しく、主婦業の合間に意外なジャンルの国家資格に一発で合格し、いまも別の国家資格の取得に向け勉強を始めている。
おまけに、余技ではあるがアロマセラピストでもあり耳つぼマッサにも熟達し、そして、サル同然の息子らをあと一歩で人間というところまで育て上げた。
そんな才能が家庭の要を担ってきたのであるから、最底辺の暮らしがいつの間にか多少なり浮上したのも当然と言えば当然と言えるのかもしれない。
この日の主食は、新生姜を使って炊いたご飯だった。
香りよく美味しい。
わたしの絶賛を聞いて家内は即座、隣家にもお裾分けを持って運んだ。
その場で揚げられたばかりのチーズチキンカツもとても美味しく、こんなものばかり食べているから、そりゃスーパーの惣菜など喉を通らなくなる訳である。
家内と向き合って夕飯を食べつつ、夏休みは少し遊ぼうと話し合った。
いろいろと案を練りながら、わたしは昔のことを思い出していた。
長男がまもなく小学4年になろうとする時期のこと。
ある塾の説明会に夫婦で足を運んだ。
塾長が言った。
「子どもが受験勉強に取り組む間、お母さんは遊ばないでください、飾らないでください、地味に静かに過ごしてください、浮ついた心は子どもに伝染し、子の足を必ず引っ張ることになります」
そんな話を聞いてアホかいなと拒絶反応をあらわにしていた家内であったが、振り返ってみれば「その間」誰よりも地味に静かに過ごしうちのサルたちのバックアップに専心していた。
根が真面目だから、ここ一番で我慢がきく。
そういうことなのだろう。
誰が恩人か。
答えは明白。
後年、この日記が息子らの参考になれば幸いである。