KORANIKATARU

子らに語る時々日記

強固な平穏のなかスヤスヤ眠った

午前中は雨が降り続く。

そう覚悟していたが突如空が明るくなり、下界をみると誰もが傘を畳んで歩いていた。

 

このまま天気が回復する、そう思えた。

傘を持たず階下に降りて外に出た。

 

渋谷川を渡り明治通りでタクシーを拾った。

土曜朝の静けさのなか、クルマは瀟洒な住宅が立ち並ぶエリアへと入っていった。

まもなく代官山。

IVY PLACEまで5分もかからなかった。

 

テラスに着席した途端、雨が激しく降り始めた。

風向きによっては雨滴が横から吹き付けた。

 

作りものの平穏が風でめくれて、今のリアルがむき出しになったかのように感じられた。

 

生存を脅かす難敵は目と鼻の先。

そんな中を知らぬが仏で過ごしているのが現代人の生の実像であるとの理解を促されつつ、夫婦でパンケーキをついばんだ。

 

雨に近い方の隣席も夫婦連れだった。

インテリ風の夫が熱心にあれやこれや手数料の話をしていて、奥さんはただただ感心するように頷いていた。

 

風雨と夫婦と手数料。

これが実にシュールな組み合わせに思えた。

 

食後、店で傘を借り旧山手通りに出た。

蔦屋の軒先で雨宿りする家内を背後にタクシーをつかまえた。

 

東大駒場キャンパスを左手に見て、まもなく下北沢の鎌倉通りに至った。

路地に入って息子の住処の前で降車した。

 

朝早くホテルを出た息子はまだトレーニング中なのだろう、留守だった。

 

早速わたしたちは掃除にかかった。

息子一人だと忙しく気が緩めばいわゆるセルフネグレクト状態に陥りかねない。

 

水回りから始め掃除機をかけ、最後には床を拭いた。

彼なりのキレイにわたしたちが加勢して輪をかけてキレイにし、暮らすために維持すべき快適の高水準を具現させた。

 

家内は何度も洗濯機を回し食事を作り置きした。

終えて、夫婦で力を合わせ寝具をコインランドリーに運んでスーツやシャツをクリーニング屋に持ち込んだ。

 

午後を過ぎてすべての作業が完了を見た。

精魂尽きてクタクタだった。

 

どこかに寄り道する気力は残っておらず、駅前でタクシーに乗り込み、まっすぐ渋谷に戻った。

東急で惣菜を買い、ホテル下のフレンチバールで軽食をテイクアウトし部屋にあがった。

 

部屋は広く快適。

外で食事するよりくつろげた。

家内はワインを飲み、わたしはノンアルで疲れを癒した。

 

午後7時を過ぎ、前夜同様、息子が部屋に戻った。

ウーバーイーツで彼の好みの肉類も届いた。

 

各々部屋の各所に陣取って、夜遅くまで語り合った。

 

親の希望を相対化し彼は自らの価値観のもと彼自身が選ぶ道へと進み始めた。

子育てはやはり終わったのだった。

 

援護射撃はもはや不要。

というより、どちらかと言えばもはやわたしたちが援護される側にまわりつつあった。

 

子育てに注いだ努力が実った。

ここに形作られた平穏は確かで強固なものであるように思われた。

f:id:KORANIKATARUTOKIDOKI:20210920203821j:plain

2021年9月18日朝 代官山 IVY PLACE

f:id:KORANIKATARUTOKIDOKI:20210920203809j:plain

2021年9月18日午後 テイクアウトし部屋食 バール ア ヴァン クロワゼなど

f:id:KORANIKATARUTOKIDOKI:20210920205115j:plain

2021年9月18日夜