昼前には出かけると家内が言うので、午前中に武庫川を走った。
日差しはずいぶん和らいで、風が気持ちいいからへばることがない。
ちょうど一時間走ってシャワーを浴びた。
ほどよい疲れのまま家でのんびり過ごしたいとも思ったが自身を励まし支度した。
向かうは夙川。
KOTTABOS (コッタボス)という店のタコスが美味しいらしい。
好天に恵まれ、のびやか過ごせるはずの秋分の日。
山の麓の道は細く長く混み合って右に左に小道が折れて踏切待ちも加わるから苦痛を覚えた。
押し合いへし合いするなかようやく目的地に到達するが駐車場はなく、近くのコインパークに停めたところで開店が12時半なのだと知った。
眼前には山地から平地へと向かう長い車列。
見ているだけで重く沈んで塞ぎ込むような気持ちになった。
一時間も待てない。
早くここから抜け出そう。
わたしが主張しクルマを出して夙川を渡って東に進んだ。
たちまち道幅が広がって空も広がり落ち着いた。
そのまま、けやき通りを進んで快適。
その昔、家内旧知の人物が言っていた。
ここらに住むのは医者と弁護士ばかり。
語録が編纂できるくらい平気で嘘つく人物の言うことだから話半分で受け止めるにせよ、実際、住む人を選ぶような地に思えた。
建設中のビッグビーンズが右手に見えて、やはりそう。
大阪市内最強、そんな高級路線のスーパーマーケットが進出するのであるから普通の場所ではないと言ってよかった。
駅前通りに僅かなスペースを見つけ縦列で停め、パーキングメーターのチケットをクルマのフロントに貼り付けた。
スパイシーな食を求める口になっていたから、インド料理を選んだ。
ああ、おいしい。
ランチを楽しみクルマに戻ると駐車違反とのシールが貼り付けてあった。
「枠外駐車」とのこと。
よくみれば、なるほど。
枠と枠の間の枠外にちょうどぴったり駐車していたのだった。
慣れぬ行路を走って疲れ、注意力が欠如していたのだろう。
アンラッキーだが喜ぼう。
たまに悪いことが起こるとして、この程度で済めば許容の範囲。
家内にそう話して、笑顔を作った。
息子が財布を失くしたとき、喜んだ。
これで懲りて、将来財布を失くすことはなくなるだろう。
息子が自転車を盗られたときにも喜んだ。
事故に遭うより千倍もマシ。
身に降りかかる悪いことにメニューがあるとして、折々避けられないのであればかすり傷を選びたい。
再起不能となるくらいの災難が、この身をそれた。
そう思えば、図らずもクルマを停めた枠外がこの日いちばんの僥倖をもたらしたと言っていいだろう。