海域によって棲む魚は様変わりする。
伊勢と淡路島は人の感覚からすれば離れているが、同じ南海トラフ上にあって魚にとっては同じ場所。
このように海には海の区分があって、ここら近海には南海トラフの他、瀬戸内、大阪湾、太平洋沖合など全く異なる海が4つある。
魚の棲息域の話に続いては部位の話となった。
まるで理学療法士が語るみたいに部位と旨味が理論的に関連付けられ、話が魚であるだけにまさに目からウロコであった。
食材の話だけに留まらない。
器も凝りに凝って奥が深く、ご飯を炊く窯はもちろん雲井窯で、食にまつわるあらゆるトピックが目白押しといった空間であったから、食べて美味しくかつ楽しい。
緒乃の店主小野さんの話に感心しつつ料理に魅せられ、ところでわたしたち夫婦が交わす話題は息子が将来出会うであろう女子についてだった。
変わった子だったらどうしよう。
そう懸念する家内にわたしは説いた。
ああ見えて息子らはかなり冷静に女子を見ている。
男子校男子のノリで突っ込んだ会話を父子においてこれまで交わしてきた。
だから大丈夫とわたしには分かる。
長男は言った。
尊敬できる部分がなければ話にならない。
何か語り合うにせよ、中身が空っぽだとつまらない。
仕事についても高め合える。
そんな戦友といった相手がいい。
わたしがかつて思ったような、料理が上手で美人で優しいといった牧歌的な理想とは次元が異なり、まさにわたしとは海域を別にする話と言えた。
二男は言った。
いままでめちゃくちゃいい子だと思った女子が二人いる。
「いい」というのはどういうことだろう。
父子で話し合い「いい」について掘り下げた。
まずその二人はともに理系だった。
医学部と理工学部。
おやおやロジカルな人が好みということか。
わたしはそう思ったが二男の着眼は異なった。
人の気持ちが汲めて、人の心を大事にできる。
この二人は昔からずっと変わらない。
なるほど。
ではまとめれば「思いやりがあって真面目」ということになる。
隣に座る家内に言った。
見かけがどうのといった話ではなく、ファイティングスピリッツや心根といったものに重きを置いて彼らはパートナーを選ぼうとするだろう。
簡単には偽装できない特質だから、偽餌に釣られるといったことは考え難い。
それにわたしの目だって節穴ではない。
以前、誰かいい男子はいないかと知人を通じ相談を受けたことがあった。
そのときたまたま、よく顔を合わせる星光の後輩のことが頭に浮かんで引き合わせようと動いたが、直前になって踏み止まった。
誰かが誰かを知っている。
わたしたちはそんな村的つながりの網目の中に身を置いている。
だから、その気になって耳をそばだてれば、結構いろいろな話が聞こえてくる。
お相手の女子はかなり我が強く、人を踏んづけるような強烈な性格。
つまり、ちょっとしたがらっぱち。
そうと聞けば、後輩に刺客を送り込むも同然。
心優しい星光生などひとたまりもないはずで、紹介するのが躊躇われた。
それに母娘揃って大のブランド好きだとも囁かれ、それが本当なら経済的な刺客とも成り得、尻に敷かれれば彼がとんだ穀潰しといったことにもなりかねない。
そういった情報が吉凶のうちどちらを示唆するか。
それくらいはわたしにだって見て取れる。
事が息子となっても同様。
未知の相手と出し抜けにといったことがない限り、何か情報はあるだろう。
だから助言くらいはできると思う。
とはいえ、おそらくすべては取り越し苦労。
同じ海域の似たもの同士が、なるほどこれが運命ねといった感じでひっついて、めでたしめでたしになるに違いない。
だから、わたしたちはわたしたち。
わたしたちのこの先を謳歌しよう。