駅に到着し、わたしたちは第1ターミナルのガレリア3階に向かった。
寿司幸のカウンターに座り、家内は白ワイン、わたしはノンアルを頼んだ。
広々ゆったりとした空間に心が落ち着く。
喧騒からもほど遠い。
「こちら」から「あちら」。
世界をまたぐ際には緩衝地帯が欠かせない。
映画のエンディング曲を聴きながら余韻にひたり、いよいよ席を立つ。
それと同じ。
旅にもそんな時間が欠かせない。
旅を振り返り心を整える。
寿司幸はそんな帰り支度をするのに格好の場所だった。
寿司をつまんで、今回上京したからこそ巡り会えた瞬間瞬間について夫婦で語る。
わたしと家内の思い出が共有されて、良き記憶が膨らみを増した。
やがて帰阪後の話が顔を覗かせる。
大阪各地に加え神戸や京都、さらに名古屋などでの近々の予定について確認し、いつしか寂しさは消えていった。
午後7時過ぎ、機が離陸し眼下に見えた東京の光がまもなく大阪の光にとって代わった。
続いて目に映る映像は、猛スピードで走るタクシーのなかに移り、機を降り立って半時間もしないうち自宅の灯のもと運ばれた。
タクシーを降り家内はまず先、隣家におみやげを届け、わたしは風呂を沸かせてからリビングのソファにどっかと腰をおろした。
馴染んだ空間の全方位に視線を向けていく。
家は隅々に至るまでこの心身と一体化しているようなものである。
だから家に帰るといつも思う。
家がいちばん、ここが最上。
家内も思うことはいつも同じはずである。