家内が作った手料理をクルマに積んで実家に寄った。
年末年始の過ごし方について父と話す。
大晦日はいつも通り。
実家で紅白でも見ながら父と過ごす。
元旦は墓参りし、そのままうちの家で食事することになった。
母のいない家で正月を迎えるのは寂しい。
男孫二人と一緒に飲めば少しは元気も出るだろう。
そんな話をするがいつしかまた思い出話になって、ふと父が言った。
おかんはおれのことなんか言うてたか?
母はいまおらず何も言わない。
その言葉を求めて胸の内を探り、それが尽きれば自分以外の記憶からでも手繰り寄せたい。
父はそんな心境なのかもしれなかった。
母は人の悪口を絶対言わない人だった。
父には苦労させられたはずだが、愚痴をこぼすことはなかった。
それどころか、ときおり感謝の思いを口にしていた。
だから、わたしはそう伝えた。
感謝していたと思う。
はじめて会ったとき、父はほつれた紺色のスーツを着ていた。
なのに母は信頼感を覚え、この人についていこうと心に決めた。
母がしてくれたそんな話を思い出しつつ、父の顔を見た。
若き青年はずいぶんと年老いた。
ああ、そうか。
そう言って父はわたしの言葉に頷いた。
追慕の念が込み上がってきたのかそこで会話はしばらく途切れた。
ほつれたスーツの青年に恋した母は、4人の子を授かって9人の孫に恵まれた。
母ひとり子ひとりという生い立ちの母であったが、わたしたちのなか脈々とその命は受け継がれている。
そう思ってしかし、不在のまま時が進んでそれが寂しくてならない。