昼を済ませて白紙の時間を前にした。
行き先は特にない。
そうなると田舎者の足はそこに向く。
御成門駅で降りル・パン・コティディアンでお茶してから東京タワーに向かった。
しかし、気づいた。
真っ昼間、それはただの鉄塔であり何ら美しさを放つ存在ではない。
夜に出直そうとなった。
家内の思いつきを頼りに白紙の時間を埋めていく。
ローズベーカリー銀座でキャロットケーキを食べようとなって、わたしはただ家内について歩いた。
ひとつのケーキを分けて食べ、日暮れを待って今度は表参道に向かった。
ケヤキ並木の道を夫婦で歩くが夢は夜ひらくとばかりクリスマスの夜、人人人とごった返していたので早々に退散した。
渋谷に向いて歩いて寒く、経路を調べるとまもなく東京タワー行きのバスが青山学院前に来ると分かった。
青山ブックセンターがあったのでそこで立ち読みしながら暖を取り、時間を潰し午後6時過ぎバスに乗り込んだ。
座席から街が見渡せ、バスは観光に最適だった。
どこもかしこも人であふれ、そんな様子を夫婦で眺め虎ノ門五丁目で降りた。
ライトアップされた東京タワーが眼前に迫って、夜はさすがにきれいだと思ったが展望台行きのエレベータを待つ長蛇の列に気圧されてここもまた早々に引き上げた。
タクシーを拾おうと芝公園沿いの道路にぶるる震えて立っていると一台の軽自動車がわたしたちを通り過ぎたところで停車した。
若い男子が出てきてラゲッジを開け、手にしたのはティファニーのショッパーだった。
運転席に戻って男はそれを助手席に座る女子に手渡した。
東京タワーの見える場所でクリスマスの夜、彼女にティファニーを贈る。
手垢のついた演出が目の前で実演されて、東京タワーよりよほどこの光景の方が東京土産になるとわたしたちは思って更に震えてそのシーンを注視した。
タクシーが皇居のお堀端を進み、冷気に凍りつくかのような水面にじっと見入っているうち東京駅に着いた。
わたしたちはまっすぐラーメンストリートを目指した。
ここもまた人だらけだった。
列の進みが早いと見えた斑鳩を選んで待つこと10分ほど。
寒さのなか夫婦で夢見たラーメンはめちゃくちゃおいしかった。
こんな夕飯もたまにはいい。
仲良く温まって、これにて白紙の時間がすべて埋まった。