正月の二日目、昼に焼肉を食べてから家を出た。
有馬に向け家内がハンドルを握った。
もともとは高松の温泉を二泊三日で予約していた。
が、1月4日には帰京すると息子らが言うから急遽予定を変更した。
ダメ元で電話した有馬グランドホテルにたった一部屋空きがあった。
和室十畳の部屋で食事はバイキング。
それで申し分なかった。
午後三時に到着したがフロントはチェックインを待つ客で溢れかえっていた。
二世代、三世代に渡る大家族の姿があちこちに見え、部屋へと案内される順を待っていた。
わたしたちは部屋に案内されてすぐ展望大浴場に向かった。
男女で別れ、男三人でサウナに入った。
温泉よりもサウナが必須で、だからサウナで見劣りする他のホテルでは用を為さず、ダメ元がダメで終わらず本当に幸いだった。
各自、サウナの入り方について語り熱に憩った。
ごついカラダの三人はかなり目立ったかもしれない。
三人で浴場をそぞろ歩き、冷水に入って外気を浴び、また熱に戻るという流れを繰り返した。
仕上げは露天の湯。
並んでつかって空を仰ぎ、長男が言った。
ここの老人たちは人生の勝利者感に満ちている。
なるほど正月に大家族を有馬に率いる面々と言えるから、それら一家の長は勝利者であるに違いなかった。
夕飯はバイキングだったので、優雅な上げ膳据え膳とは異なった。
このような食の争奪戦においてうちの家族はその真価を発揮する。
各自持ち場に散って人気の品を家族のためにたっぷりと持ち寄った。
そして家内は給仕する女子らに積極的に話しかけ、インターンとして長野から手伝いに来ているという女子と仲良くなった。
終盤、手作りアイスのコーナーに列ができたとき、この女子がこっそりうちのテーブルにアイスを運んできてくれた。
なにも列の前に踊り出ることだけが能ではない。
人の世を渡る奥義のようなものを若き男子二人は母から学んだに違いなかった。
食後、和室には田の字に布団が敷かれていた。
ワインを開けて、DVDをデッキにセットした。
持参した映画は『82年生まれ、キム・ジヨン』、いつか息子らに見せようと思っていた作品だった。
映画を見終えて仲良く寝転がり、酔って寝入った家内の寝息を聞きつつ男三人でいつまでも語り合った。
布団をくっつけ肩寄せて、いつしか川の字になっていた。
これを恒例行事にしたい。
川の字の真ん中でわたしはそう夢想した。