とびきり美味しいカレー屋が奈良にある。
月曜は定休日だが今日は特別に営業している。
家内がそう言うから奈良へと向かった。
JR奈良駅から近鉄奈良まで歩いてまもなくカレー屋「toi印食店」に行き着いた。
店の前に置かれた帳面に名前を書くが、すでにかなりの待ち客があった。
一時間ほどお待たせするかもしれません。
店主の奥さんと思しき若い女性がそう言った。
家内を近くの茶店に待機させ結局待つこと一時間半。
古都の路地にて寒風に吹かれ、日差しに影がずいぶん伸びたところでようやく席に案内された。
待った分だけ大いに食べようとなって、わたしも家内もカレーの四種セットを頼んだ。
もちろんカレーの味を強化するハバロネの注文も忘れない。
まもなく盆に載せられ各種カレーがやってきた。
チキン、鮮魚、豚肉、野菜といった四種のカレーがジャスミンライスを取り囲む。
一口食べてわたしは唸り、それぞれ食べてやっぱり唸った。
これぞカレー。
深みあってコクあってスパイスが効き、カラダの内側が歓喜をもってその奥ゆかしい風味に呼応した。
カレーが人類の主食である所以が腑に落ちた。
夫婦でともにライスをおかわりし、その大半をわたしが平らげたが、こんなカレーが添えられたら白飯がいくらあっても足りないという話だった。
おいしいだけでなく、生きるうえで必須。
そうスパイスが告げてカラダのなかを跳ね回る。
大勢の人が並んで待つのは、これを求めてのことに違いなかった。
女房と感動を分かち合い、しかしこれで一日が締め括られるのではなかった。
祝日だから人出があって、奈良の地は奈良らしく地味に賑わっていた。
猿沢池あたりから古民家が並ぶ一帯を歩き、次に向かったのはかき氷屋「ほうせき箱」だった。
わたしが抹茶で家内がいちごを頼み、二人で分け合った。
抹茶は抹茶でいちごはいちご。
素材の美味がいっそう際立ち、このかき氷にも感動を覚えた。
奈良も捨てたものではない。
そう話しつつぶらり歩いて駅へと向かった。
三年前、センター試験の会場は奈良だった。
近くのホテルに泊まってここらで長男と過ごした記憶を家内と辿り、大和路快速に乗って帰途に就いた。
途中、王寺駅から西大和生が乗ってきた。
ああ、懐かしい。
長男もこれに乗って家と学校を行き来したから大和路快速にはいろいろな思い出が詰まっていた。
担任の先生はほんとうに息子によくしてくれた。
夫婦の思いは同じ。
いくら感謝してもし足りない。
それほどの恩を受けたのであるから、やはり奈良はわたしたちにとって特別な場所なのだった。