正月が明けてすっかりノンアル生活に戻った。
だから夜でも運転できる。
それで家内と芦屋の水春に通う回数が増えた。
特に冷え込む夜。
阿吽の呼吸で支度してクルマを走らせる。
夜道ははけて20分ほどでたどり着く。
じっくり入ればたちまちのうち二時間程度は過ぎて行く。
ああ、温まった。
そんな幸福感にひたって帰途につく。
甲子園のいかりスーパーが10時まで営業しているからそこで就寝前の腹の足しを物色し、家内は飲むがわたしは飲まない。
ぐっすり眠れて、アルコールが入っていないから朝、すこぶる調子がいい。
ああ、生きて在ることは素晴らしい。
息するだけでそう思う。
いいことばかりであるからこれが習慣として根付くことになるだろう。
先日、職場からの帰途、下町の銭湯に寄った。
サウナに入ると墨絵も鮮やかな先客があったが一人だけなのでほっとした。
ほどよく汗をかいて出ようとするとき、同時に入ってくる若者3人組がいた。
やんちゃそうでいかにもその筋といった風体であった。
わたしは怯み、ところが向こうは揃いも揃って一歩引き、見てくれからはあり得ないような丁重さでその場で控え、わたしを先に通してくれた。
その世界、縦の序列が徹底しているから他所者であれ目上と見れば慇懃に頭を下げる。
わたしは自身の裸の体躯を思った。
墨絵はないが対峙すれば先輩と見えないこともないのかもしれなかった。
だからもうサウナに戻るという選択肢はなかった。
次に入れば素人であるとバレさっきの丁重さの反作用が生じるかもしれず、それが杞憂にしても、なんとも気まずい言葉のやりとりが生じかねなかった。
わたしはさっさと汗を流しそそくさと風呂を上がった。
なにも風呂で緊迫することはないのだった。
もう二度とここを訪れることはないだろう。
このような経緯もあって、わたしは銭湯から足を洗い今後はカタギの世界で憩うことになる。