昼も夜も66期と一緒に食事するといってこの日も二男は外へと出かけた。
土曜に続き日曜の夜も夫婦二人での食事となった。
白ワインを開け夫婦でカワハギの鍋を囲み、家内の話に耳を傾けた。
話題は図書館でのこと。
正午に自習席の入れ替えがある。
家内は目星をつけた場所の後ろに立って席が空くのを待っていた。
と、家内の前に高校生の男子が割り込んできた。
並んでいることを家内は男子にピシャリと伝えた。
え、自由じゃないの、と男子は言ったが、家内の毅然に言葉を継げず、その場を退いた。
で、男子は隣で順を待つ父娘の前に立ち、その父娘を差し置いてまんまと自習席にありついた。
呆然と佇む父の肩を中学生と思しき娘が何度も叩く。
が、父は何も言わない。
父が一緒に順を待っていてくれた。
それなのに、鳶に油揚げをさらわれるかのごとく席を奪われた。
父は何も言えず娘も父に怒りをぶつける以外手立てがない。
そして男子は席でゲームなどし始めて、それでも父は何も言わなかった。
そんな話を聞いてわたしは憤った。
なんて弱いのだ。
わたしなら黙っていない。
男子を椅子から引きずり落とすだろう。
と言って、考えた。
もしその男子が単なる高校生ではなく、やばい眼をした狂気の人物だったとしてもそうするだろうか。
相手に向け伸ばそうとした手は、相手の目つきによっては行き場を変えて自身の頭部に着地し、照れたような仕草になったかもしれない。
やはり注意一秒怪我一生。
ここ関西では、下手に注意すれば致命傷を負いかねない、という意味になる。
席ひとつで取り返しのつかないことになれば全く合わない。
が、そこで思い直した。
娘がいるのだった。
問題は席ではなく娘。
ここですごすごと引き下がったら、娘は傷つき一生忘れない。
わたしに似れば、娘はかなりの不器量に違いない。
しかしそうであっても、娘は娘、おそらく史上最愛の存在であることに変わりない。
であれば、父はその娘に尊敬されるような存在でなければならないはずである。
私にはこの父がいる。
そういう頼もしさを父が有していなければ、なんと不憫でどれだけ心細い人生であろう。
だから、娘がいれば娘のために、よくもこの状況でと、無思慮のまま一気に沸点に達し、わたしはたいへんな剣幕となったはずである
なるほど、そういう意味で娘の存在は自らを最強化する上で唯一無二のモチベーターであると言える。
しかし残念ながらわたしには娘がいない。
仕方ないのでボチボチ行こうと思う。