数日置きには岩盤浴に横たわる。
疲労はなかったが、何事も先手。
この日の夕刻も岩盤浴で過ごした。
いつしか幸福感に満ちて、岩盤浴を終えて湯につかっているときには自然と鼻歌がこぼれ出た。
引き続きクルマで北上し尼崎の阪神百貨店で夕飯とする食料を買い、ふと思いついて階上の本屋を覗いた。
どの本屋にも在庫がなかったが、直感が告げ報せたとおりここにはあった。
岩波新書の棚に目を走らせてすぐ、他の本に挟まって佇む『独ソ戦』を見つけることができたのだった。
平日なのでノンアルで過ごし本を読むうちいつしか寝入って、深夜零時過ぎ、家内の電話で目が覚めた。
18階だから揺れが相当ひどかったようである。
家内が言う。
長男からはさっき電話がかかってきたが、二男に電話が繋がらない。
まさか。
大丈夫だろうとは思うが、繋がらないと不安が募る。
家内とわたしで何度かけても繋がらないから、思考はますますネガティブな方へと傾いて、悪いことばかりが頭を巡り始めた。
次第、怒りまで込み上げた。
こんなときに電話が繋がらないなら携帯をもたせている意味がない。
馬鹿野郎。
憂いで闇が一層濃くなる一夜を過ごし、明け方近くになってようやく二男からメッセージが届き、わたしはiPhoneを鷲掴みにして画面に見入った。
「なんかあった?」とあって、拍子抜けして安堵した。
大きな揺れがあったにも関わらず彼は地震に気づかず、熟睡していたのだった。
電話の向こう、どれどれといった感じで二男は部屋を見渡し、あっと声をあげた。
本棚の上に置いてあった寅次郎が床に突っ伏していた。
寅次郎というのは彼の相棒格とも言えるぬいぐるみであるが、幸い、寅次郎も無傷で無事だった。
いま家族全員が東京にいる。
何かあったら、と思うと肝が冷える。
せっかく岩盤浴で温まったのに、一晩ですっかり冷えてしまった。