金曜夕刻の予定が変更となり、わたしは一人になった。
場所は阿倍野。
わたしは自身に問うた。
金曜は平日か。
否。
土日を前にする金曜は特別な日であって、「平」が冠せられるその他曜日とは一線を画す。
金曜は平日か。
自身の内に生じた宗教論争に呆気なく決着がついた。
金曜は週末である。
すなわち土日に属す。
できたてほやほやのこの教義を高らかに掲げ、わたしはそこらにあった居酒屋の暖簾をくぐった。
息子らとメッセージを送り合いつつ憩いの時間にひたっていると、わたしの隣席に客がやってきた。
見るからに物騒な雰囲気を漂わせている。
カウンターの向こうにぶつぶつと言葉を発し、そんな言葉を店員が笑顔で拾う。
トップガン、おもろいらしいな。
そんな意表をついた言葉にも的確に応じ、店員が言った。
トップガン観たよって言うお客さん、最近多いですよ。
すごいらしいですね。
そうやで、すごいみたいやで。
真隣で繰り広げられる会話にわたしは一切首を突っ込まない。
しかし、「トップガン」についてはしっかりわたしの脳裏に刻み込まれた。
予告編などを見ても一切食指は動かなかったから、下町の居酒屋で囁かれる情報の凄みをわたしは思い知った。
近日、わたしは家内を伴い「トップガン」を観ることになるだろう。
そして、物騒な雰囲気のおじさんの囁きがずっと耳元で響き続けることになる。