慣れ親しんだスポーツが思考の型と価値観を形成する。
息子の就職活動を振り返って、つくづくそう思った。
当初は経済的な指標を軸に会社選びを行い、高給という点で申し分ない会社の内定を早々に獲得した。
個人のポテンシャルが問われ、能力を高めることがリターンにつながる。
彼にとって望むところだった。
が、就職活動に後悔がないよう様々な先輩に会う過程で変化が兆した。
慶應というのは素晴らしい。
各界にアクセスできて、かなり偉い人でもきちんと連絡をすれば会ってくれ、その後もいろいろと声をかけてくれる。
頼もしい助言者が幾人も背後に控えているようなものだから、進路を探るうえでこんなに心強いことはないだろう。
そのプロセスを通じ、彼は自分に潜むもう一つの軸に思い当たった。
個として目標を定め自らを高めることも喜びであるが、チームで力を合わせ成果を共有することも喜びであり、ともに彼のなか価値の最上位に位置した。
個として得る喜びとチームとして得る喜び。
それがクロスする地点でこそ自分の喜びがMAXになる。
では、その二軸がクロスして、波の高さが最大となる場所はどこだろう。
それで次第、焦点が総合商社に結ばれていった。
一企業でありながら国単位または国家を横断する経済圏の発展に貢献し、最前線で働く者らの気概と誇りは、まさに個を問われ、チーム力を問われる「波が激しく高い」場所由来のものと言えた。
先輩らの話を聞いて心が奮い立ち、自身が目指すべき最大の報酬はそこで湧き出すパッションではないかとの気づきにも至った。
一個人の経済的な豊かさの追求から始まって、求めるものがそのように拡張し昇華していった。
いま彼の眼前に広がる世界は、ラグビーという言語で語り得る。
つまり彼にとって実に明快で居心地のいい場所と言え、ラグビーが母国語となって彼をそこに導いたといっても過言ではないだろう。