北新地駅で待ち合わせた。
月一度のヘッドマッサを受け元気ハツラツ。
家内が颯爽と現れた。
地上にあがって緒乃へと向かった。
緒乃もヘッドマッサも簡単には予約が取れない。
家内にとっては稀有なカリスマを渡り歩く至福の一日と言えた。
一昔前なら巻き寿司など息子らの夜食を道中で買い求めた。
いま息子たちはそれぞれ東京で暮らしている。
だから土産は不要で、まっすぐ歩いて所要時間は約5分、緒乃のカウンターに腰掛けた。
定刻となって最上の宴のはじまりはじまりと相成った。
今夜は何が飛び出すのだろう。
期待感が高まった。
やはり出だしから息を呑んだ。
家内は一品一品味わって、店主にしきりに話しかけた。
5組の客があって女性は5名。
小野さんに気安く話しかけるのは家内のみだった。
和食器が凝っている。
家内の目は食器に注がれた。
奈良の辻村親子の作品との説明を受け、その場でネットで検索し家内は関心領域を広げていった。
調理器具は京都三十三間堂近くのWESTSIDE33のものだとのことで、これはうちでも使っているが、その驚くべき高性能についてはじめて知った。
さりげなく種々の形のバカラが使われ、ご飯を炊く雲井窯はクリスマス限定の品物だと分かった。
料理についても仕込みの詳細を家内が熱心に尋ね、超一流の料理人が丁寧に教えてくれた。
聞けば聞くほど奥が深い。
仕込み談義によって、料理の味わいが一層増した。
そしてわたしは改めて、家内が有する食にまつわる「教養」に尊敬の念を抱いたのだった。
一介の主婦にしては上出来。
緒乃の料理とその卓越に感嘆しつつ、隣に座る家内の造詣にも感心させられなんとも印象深い食事の席となった。
店を出ると午後11時半を過ぎていた。
曽根崎通りでタクシーに乗り込み家路に就いて、家に着いたのが11時54分。
横を見ると家内はスヤスヤと寝入っていたから、この日は家内にとって完全至福にて完結したと言っていいだろう。