灼熱のなか何とか引っ越しを終えることができた。
とは言え、下北沢の部屋を引き払って本郷に移っただけであり、日常を過ごすにはまだモノが足りない。
カーテンもなければテレビもない。
これから一つずつ買い足していかねばならないが、そこが転居の醍醐味で実に楽しい時間になることだろう。
引っ越しには断捨離が伴う。
かなりの量を積極的に捨てるから引越業者とは別に撤去業者にも依頼した。
時間に猶予がなかったため、複数の業者に見積もりしてもらう手間を省いてネットで手っ取り早く業者を選定した。
指定した日時に来てもらい、そこで作業しつつ値段について相談する。
そんな形になったから業者ペースの話になるのは火を見るより明らかな話だった。
案の定、トラックへの積み込みが終わって告げられた金額は予想をかなり上回るものだった。
ネットに書いてある「業界最安値」「満足度第一位」など、言った者勝ちの見え透いた嘘八百であり、客引きのための常套手段でしかなかった。
ちょっと高すぎる。
息子は業者にそう言って、一つ一つの値段について明細を求め、即興で書かれた明細を手に、布団の撤去が9千円などあり得ないなどと指摘しいくら何でも無茶な箇所について値引きを求めた。
が、「揉めるの嫌だから荷物を下ろして帰りますよ」と業者はうそぶいてにべもない。
この日、部屋を明け渡し、引っ越しを完了させねばならず、途中で仕事を放り出されて困るのはこちらであった。
結局、幾らかは値引きしてもらったものの相場よりかなり高い値を払うより他なかった。
当たり前の話であるが、日程にせよ、相見積もりにせよ、選択肢を失った時点で負け戦は確定していたようなものであった。
世界はいい人のみで構成されている。
あまりにいい人ばかりに恵まれて育ってきたから、そんな世界観が醸成されていても仕方がない。
だからこそ、こういった実地学習がタメになる。
世はいい人ばかりである訳がなく、人の足元を見たりつけこんだりする人もいる。
どう対処するか。
今後は先回りして対策を講じることができるに違いない。
そういう意味で、今回の割高分は安く上がった授業料と言っていいだろう。