時刻は夜十時を回ったところ。
台風が過ぎ雨はあがって、裏庭で鳴く虫の音を運んでひんやりとした風が窓から吹き込む。
そろそろ秋、そんな情緒にふけっていると電話が鳴った。
一週間に及ぶ菅平での練習合宿を終え、間をおかずゼミ合宿が続く。
松山行きの飛行機が朝七時発だから、飲み会の場を早退し、羽田空港に隣接する東急ホテルにいまチェックインしたところだという。
二泊三日のうち、丸一日は観光に充てられるというから旅行のようなものである。
松山でおすすめの店を幾つか息子に伝え、ではおやすみと電話を切った。
松山と言えば二年前、息子は家内と連れ立った。
見どころ盛りだくさんで、いろいろな思い出の詰まった街を今度はゼミ仲間と訪れる。
良き旅になることは間違いない。
一昨日、大学の成績発表があり、この前期で息子は無事卒業に必要な単位を取り終えた。
必死に勉強したというだけあって、かなり優秀な成績であったから、元気がいいばかりではなく頭もいいのだと見直した。
わたしはトレッドミルの上でTWICEを聴くが、息子はそれを真似て今回の試験勉強中にTWICEを聴いたという。
普段は聴かない曲であっても、ここ一番、「ノリ」を得るうえで、やはりTWICEは効果大なのだった。
ほんの小さなことであっても、何かを共有することは意義深い。
この夏、わたしと息子の思い出をTWICEが取り持ち、家内と息子の思い出を松山が取り持って深める。
このようにしてわたしたちの接点は今後もますます増えていくのだろう。
武蔵小杉から始まった大学生活も、下北沢を経て本郷へと至りいよいよ残り半年という所に差し掛かった。
コロナ禍に見舞われいろいろと制限される時期もあったが、まあ自由にのびのび、好奇心旺盛に過ごし多彩な糧を得た学生時代と言えるだろう。
残すところあと僅か。
さあ、何をして過ごすのだろう。
わたしなら読書百冊、映画百本と意気込むところだが、彼はもっと陽気で明るい充実を求めるのだと思う。
伝え聞く話がいつだって面白い。
彼のラストスパートがどのようなものになるのか実に楽しみである。
女房がいて、息子が二人いる。
わたし一人であれば、窓のない暗がりに閉じこもっているも同然で不健全極まりなかったはずである。
幸い窓が三つあって、その向こうに世界が広がり、こちらに光が差して風が吹き込んでくる。
だからわたしはとても幸せなのだった。