面談後、駐車場まで事業主が見送りに出てくれた。
クルマに乗り込もうとすると社長が言った。
やっぱり「ごめんね」って先に言うのが、いちばんやね。
そうですねと言ってわたしは頷いた。
それで会話が終わり、わたしは顧客先を後にした。
何の話か具体的には分からないまま、しかし長い付き合いであるから言わんとすることのおおよそは察しがついた。
誰であれ人間関係には苦慮するものなのだろう。
ハンドルを握りながら、「ごめんね」という言葉をひとりつぶやき、その言葉が有する爽やかな響きを反芻してみた。
一種のマジックワードとも言え、たったその一言で緊張がほぐれ状況が変わり得る。
それなのに、たったその一言を口にできず意固地になって、対立を深め恨み辛みを増幅させるというケースのなんと多いことだろう。
そうなると「ごめんね」は出番を失い、「ごめんね」では済まない事態を招き寄せかねない。
余裕ある段階で心当たりあれば先に「ごめんね」と言ってしまうのが、大事な人間関係を良好に保つ必須の心得と言えるだろう。
それで水に流して、風通しもよく清々しい。
ごめんで済んだら警察いらん。
大阪下町ではそう混ぜっ返されるのが通り相場とは言え、余裕を保って「ほんま、ごめんね」と返すのがいいだろう。
相手との関係を衛生的に保とうと先手を取る。
そうしたちょっとした心がけの有る無しで、得られる人間関係の景色は大きく様変わりする。