いよいよ公演の日が到来した。
うちの息子たちは小学生の頃からブルーノ・マーズをよく聴いて、その昔、タコちゃんがくれたのと同じ帽子をブルーノ・マーズが被っていたからその親近感は特別な域にあった。
クルマの送迎などで一緒に聞き馴染んでいたから家内にとってもそれは同じことだった。
この日に備え練習し、空で歌えるほどに家内はその歌唱力を鍛え上げた。
そして、二男が大阪に駆けつけることになっていたから、二男との合流に向け家内は料理にも勤しんだ。
中トロの手巻きをこしらえ、肉を焼き白子を焼いて、東京へと持たせるための肉もどっさり焼いた。
だから、メインイベントは、コンサート前の宴にあったと言えるかもしれない。
ドーム前を左右に流れる木津川と尻無川が秋晴天の西陽をキラキラと跳ね返し、母子二人の顔を晴れやかに照らす。
ベンチに座ってビールを開けて二人は乾杯した。
ビールがカラダに入っていたから、母子二人で歌って踊って、結構な汗が流れた。
知った曲になるたび、顔を見合わせた。
すべての曲が様々な思い出とともにあって、曲を追うごとに熱気は増していった。
「上を向いて歩こう」をブルーノ・マーズがピアノで弾き語り、その弾き語りのまま曲が突如として「Talking To The Moon」になったときには、二人して震えた。
最も数多く耳にしたこの曲を一緒に歌って、この場面は二人にとって他と比較にならぬ屹立した思い出となった。
午後八時半、時間ギリギリだと言って急ぎ足で二男がドーム前の駅を駆け降り新大阪駅へと向かった。
スムーズにいけば深夜零時には高円寺に着くという。
二男の背を見送り家内は今日一日を振り返り意を決した。
この日はまた巡りくる。
二男にしたことを長男にし、長男にしたことは二男にもする。
ここからが家内の本領発揮となるのだった。