地味な日常の所々にささやかな楽しみを夫婦で縫い込んでいく。
この週末は京丹後で過ごすことにした。
たまには鄙びた温泉宿も悪くないだろう。
途中、宮津に立ち寄った。
訪れるのは9年ぶりのことだった。
前回は長男が中学に受かったばかりの頃だった。
快晴の空のもと散策しながら過ぎていった歳月を夫婦で振り返った。
当時、いまがこんな風になるなど想像もしていなかった。
地道な日々をたんたんと積み重ね、気づけばいつの間にかこうなった。
何がどうなってこうなったのか。
よく分からないからただただ不思議に思って感慨にふけるのみ。
つまり結局はこの9年の分厚さに沈黙するほかないのだった。
天橋立の往復には観光船を利用した。
デッキに立って、群れ成すトンビやカモメに行きも帰りもエサをやって、夫婦ではしゃいだ。
乗船客は少なくなかったが、カモメに運を落とされたのはわたしと家内だけだった。
後ろに立っていたおばさんが親切にもウェットティッシュを差し出してくれた。
わたしたちはついている。
家内がそう言って、わたしは黙って頷いた。