かすか雨滴を感じる程度の霧雨のなか、武庫川を走って一日がはじまった。
昼を過ぎると混雑の度が増すからといって、午前中のうち家内に梅田に連れられた。
阪神百貨店のモロゾフで遅めの朝食をとり、そこから阪急百貨店に向かった。
家内が買い物する間、わたしは二階エスカレーター横の椅子に腰掛け長男とチャットして過ごした。
息子に頼まれたディズニーシーのチケットを購入したところで、買い物を終えた家内が現れた。
家内が言ったとおり昼に差し掛かって梅田は人でごった返し始めていた。
阪急電車に乗ってさっさと梅田を後にした。
西宮北口で降り、まっすぐメガネの三城へと足を向けた。
寄る年波でこのところ夫婦揃って近いところが見えにくくなっていた。
日常の視野が良好に保たれるよう、緩めの度のレンズを合わせてもらい、普段使いとは異なるテイストのフレームを選んだ。
これで一日の主目的が完了した。
バスの時間に間に合うよう山垣畜産でテキパキ買い物を済ませ、バスに座って家の近くまで運ばれたのであったが、曇り空のもとガーデンズへと行き来するクルマで山手幹線が大渋滞していて驚いた。
そして、引き続きわたしたちはまだまだ動くのだった。
支度してジムのある西宮北口へと自転車で取って返し、泳いでサウナに入って、それからガーデンズの成城石井で夕飯にする惣菜を買い、夜になってようやく日曜の安らぎの中に身を置いた。
この夜は夫婦で飲みつつ家内の遠い昔の思い出に光が当たった。
近いところは見えにくいのに、歳とってやはり遠くはよく見えるのだった。
中学三年のとき、地元の市が主催する英語のスピーチコンテストで見事若き家内は優勝を果たした。
それでべルビュー市へ交換留学生として派遣された。
そこでいろんな人と知り合った。
あちこち連れて行ってもらい、二ヶ月の滞在期間は輝くだけ輝いてあっという間に過ぎていった。
大学生になって再訪も果たし、その後もかなり長い期間にわたって文通が続いた。
が、いつしか途絶え疎遠になった。
いまごろみんなどうしてるのだろう。
向こうも忘れているはずがなく、こちらも忘れていない。
再々訪してみるのはどうだろう。
わたしは言った。
遠く思い出をたどって、当時よりはるかに楽しく趣き深い旅になるに違いない。
歳を取り、夫婦で思い描く行き先ばかりが増えていく。