家をきれいにしよう。
起きるなり家内がそう言った。
陽射しが柔らかく、冬の冷気が心地いい晴天の日曜。
格好の掃除日和と言えた。
手分けして作業にかかり、最後は玄関で合流しアプローチまわりにケルヒャーを噴射した。
家内は身軽にも門扉上のコンクリートの上にまで登ってそこからも水を噴霧した。
公園で遊ぶ子どもたちも道行く人もみな家内の姿を注視した。
水滴が光を受けて美しく、家はすみずみまできれいになった。
朝十時には片付いて、家内の運転でガーデンズに向かった。
丸福珈琲でモーニングを食べジョーシン電機で買い物しているとまもなく時間。
この日は映画「非常宣言」のチケットを購入していた。
序盤から手に汗握って、随所で肝が冷えた。
エンタメとしての完成度が高いのは言うまでもなく、映画に込められた問いかけも重かった。
極限状態のなか、ありとあらゆる登場人物が意思決定を迫られる。
刑事として夫として元パイロットとして乗務員として行政の長として政府として、いまここでどうすべきなのか。
そして人間として、何を優先すべきなのか。
ソン・ガンホやイ・ビョンホンをはじめ、韓流の役者の存在感は凄まじく、だから観る側もそれら登場人物に感情移入しつつ逡巡し、最終的には家族に思いを馳せることになった。
誰であれ一度はなぞるべき極限と言えた。
映画を見終え、ガーデンズ一階の妻家房にて昼を食べつつ夫婦がする会話はすべて映画のことで占められた。
夫婦で一緒にみてよかった。
そう思える映画だった。
帰宅してわたしはランニングに出て家内は家事に勤しみ、夕飯などどうでもいいと感じられ買ってきたもので簡単に済ませた。
引き続き夫婦の会話は映画を巡った。
ハラハラドキドキし最後には心静まり深い思考へと導かれた。
映画を観ることは喜び。
夫婦揃ってそう思えた。
さあ、次は何を観ようか。
あれもこれもと候補が挙がってひしと感じた。
初老夫婦の週末は、いくら時間があってもまったく足りない。