雨が降り続いていたので、駅までクルマで迎えに来てもらった。
助手席に乗るなり、言われた。
「やっぱりこわそうな人に見えますね」
迎えに来てくださった事業主は長く地元スポーツチームの総監督の座にあって強面で有名。
対すれば誰だって最敬礼にて直立不動となる。
そんな方に「こわそうに見える」と言われたのだから、これは褒め言葉以外の何ものでもないだろう。
だから、わたしは「いやあ、私なんてまだまだですよ」といった感じで照れて笑ってかぶりを振った。
このところせっせとジムに通うから量を食べても徐々にカラダが引き締まり、かつ頑丈になっている。
それで知らず知らず覇気のようなものがにじみ出ているのであろうから、こわそうに見えてもいいことであるに違いない。
褒められて嬉しく弾む心で業務をこなし、帰りも駅まで送ってもらった。
続いて事務所に寄ってから夕刻前、ひさびさ実家を訪れた。
いつにも増して父は疲れたような雰囲気で、会話のなかしばしばため息が混じった。
昔はこんなんちゃうかったのに。
そう言って父は笑うが、往年の父の迫力がもはや過去のものになったのだとひしと感じ、わたしはとても笑えない。
少しは元気になるような話をと思い、長男と二男の近況を語り、このほど事務所に入った職員の話をした。
非の打ち所がない。
それが欠点というくらい優秀な女性が入って事務所がますます活気づいている。
近いから昼でも食べに遊びに来ればいい。
まあ、そのうち。
父はそう言うが、遠慮して顔を出すことは決してないとわたしには分かった。
そして話すうち、わたしも遠からずこんな感じになるのだろうという当たり前に気がついた。
誰だって最盛期を過ぎ、老い、かつての覇気は失われていく。
父と会話しながらいつしか役割が代わって、わたしが息子たちに励まされているような光景が目に浮かんで今と重なった。
そして更に気づいた。
順繰り順繰り。
彼らが50代で帯びる覇気を思えば、わたしが老いたところで悲しむことは何もない。
覇気は失われるのではなく、よりふさわしい場所へと引き継がれ植え替えられていくだけのことなのだ。