KORANIKATARU

子らに語る時々日記

誰であれ真っ直ぐ歩き続けるなどできやしない

東梅田駅へと差し掛かる地下街をまっすぐ歩くなど至難の技である。

四方八方から無秩序に人が押し寄せ、その様は微粒子が不規則に動くカオスそのもの。

 

まっすぐ歩く。

そう強く意思したところで、多数の意思がランダムに入り交ざり、結果、思いもよらぬ軌跡を辿って、想定した「まっすぐ」は必ずや腰の砕けた「ジグザグ」となる。

 

そのときわたしは東梅田の雑踏のなか細かなステップを踏み、なんとか歩を前へ前へと運んでいた。

だから人の顔など見もしないのであるが、その知った顔には視線が向いて、わたしは一瞬、足を止めることになった。

 

しかし、地下往来の障害物となったわたしはあっけなく人波に運ばれ、向こうも同じく人波のなかへとかき消えた。

だから、その姿を視認したのはほんの僅かな時間であったのだが、多くのことが見て取れた。

 

疎遠となって流れた歳月は十年以上だろう。

最後に見たときより彼はぷくりと太って、脱げばぶよぶよであろうと察せられた。

 

その体型から察するに、おそらく彼は丸くなったに違いなかった。

 

エリート風を吹かせ人を見下すような、昔は冷たい感じの男だった。

しかし長い年月を通じ、彼もまっすぐに歩き続けることができた訳ではないのだろう。

 

彼のプライドを支えていた宮仕えについて、そろそろ明暗がはっきりしている頃であろうし、勝ち気で見栄っ張りな奥さんにいまも手を焼いているであろうし、その見栄っ張りに付随して相変わらず子どもたちの学費は嵩む一方であるだろう。

 

足元からしてそうなのであるから、まっすぐ歩くどころか普通ならもうフラフラであってもおかしくない。

 

人生という風雪に晒され、会社に従属しての選民意識といったプライドを手始めにありとあらゆる尖った部分が削りに削られ、丸みを帯びた。

 

彼の風采からそう捉えて間違いなく、だからいま話せば、昔と異なり決して嫌な奴ではないのだろう。

 

時が経てば人は変わる。

あらゆる障害物にもみくちゃにされて、たいていは謙虚で心優しい人物になっていく。

 

あのイキった感じの嫌な男はもう存在しないのだった。

2023年5月18日昼 門戸厄神 夢打庵 山かけにしん十割そば大盛り 2,550円

2023年5月18日夜 ランニングの後 西宮 キンテバ