この日、家内には和歌山に出かけてもらう用事があった。
午前中に家事を済ませ、昼にきじ歯科を訪れ定期検診を受け、そして家内は天王寺駅にて特急くろしおに駆け込んだ。
ポワールで買ったサントノーレを味わって車窓を眺め、和歌山駅からタクシーで目的地へと移動した。
世間話も和やかに任務を終えタクシーで駅へと引き返し、せっかくだからと和歌山ラーメンを食べ、梅干しや漬物など地元の名産品を各種仕入れるうちまもなく夕刻。
特急くろしおに揺られて帰阪の途に就き、なんと車中に知った顔があったので、家内はびっくり仰天することになった。
息子のマブダチの父親だった。
白い巨塔の世界にあって、本邦初の手術に成功したとのことで先日、記者会見の様子がニュースで取り上げられていた。
知らぬ顔をするのも失礼なので、駆け寄って「奥さまにいつもお世話になっています」と簡単に挨拶の言葉を伝えた。
実際、「奥さま」とは毎月のように会い、お茶したり食事したりしている。
いまでは当たり前のような交流も元をたどれば息子を通じての縁と言え、もちろん当の息子同士も引き続き仲が良く、先日も東京で一緒に遊んでいた。
ああ、なるほど。
大阪下町で生まれ育ち、「下々の民」を自認するわたしであるからこうした縁に非現実さを覚え、それで一層感慨が深まるのだった。
友人たちが素晴らしいのは、わたしも長男も二男も家内も同じで、それらが輪となって広がって、まるでリアリティが感じられないレベルにまで至ってなお素晴らしい。
そんなことを思いながら、わたしは家内の話を家で聞き、食事が出来上がるのを待った。
前日カレーを食べ、自分で作った方が美味しいと家内は思い、そう思えばすぐに実践する家内であるから、この夜のメニューはカレーで決まりだった。
本場のスパイスを用いて大ぶりのエビを煮込んで、バスマティライスを炊いて作ったカレーは家内が言うとおりそこらの店の味を凌駕した。
もちろんわたしがおすそ分けにあずかって、過半は息子たちのもとへと送られる。