KORANIKATARU

子らに語る時々日記

お迎えの光が向こうを発った

一歩外に出て、常軌を逸した暑さにむせ返った。

 

目に映る景色の輝度も尋常ではない。

色鮮やかさを通り越し、何もかもが目一杯ギンギラに発光していて、これでは目までやられてしまう。

そんな怖気を覚えた。

 

武庫川を走るのは断念し、ジムへと向かった。

 

家内は一歩先にヨガへと出かけていた。

もしかしたら後でジムにて合流することになるのだろう。

 

外界が暑ければ暑いほど、プールの心地よさは最上の度を増す。

水中で過ごす幸福感にひたるうち、ノイズレベルの雑念は濾過されて、大事なことだけが頭に残った。

 

ぼんやりと仕事の将来を思い浮かべ、わたしが老いた先まで見越したイメージが垣間見え、続いて息子たちのことを考え世界へと羽ばたくのだろうその前途洋々を思って胸が満ちた。

 

そして、いつしか女房が現れるのを待つような気持ちになって、泳ぎつつ時折プールサイドに目をやった。

 

今週も一生懸命な家内であった。

エステにヘッドマッサに歯のケアそして美肌ケアなど手入れに余念なく、もちろんヨガもジムも欠かさず息子たちへの料理発送も怠らない。

今夜は、インディバはインディバでもカリスマとして聞こえ高い店へと赴くのだという。

 

そうか、家内は留守なのか。

これ幸い。

いつものわたしなら飲みに出かける好機と捉えていたが、今夜は家でゆっくり本でも読もう。

そう思った。

 

土曜の夜、静かな時間に身を浸し意識も明瞭にページを繰る。

そんな情景が浮かんで、心にほのか灯がともったように感じられた。

 

これからは大切な時間を大切にする。

そうシンプルに生きようとわたしは決めたのだった。

 

今夜、東の空には夏の大三角が見えるだろう。

 

その一角を占めるベガは地球から25光年の距離にある。

そこを発った光が文字通り光速で進んでこっちに届く頃、わたしは80歳を迎える。

 

なんとも切ない話であるが、一方でその25年は息子たちにとって輝度MAXな季節となる。

お迎えの光がやってくるまで精一杯、その眩しさに張り合っていこう。

 

いくら泳いでも苦しくない。

いつしかわたしはスイマーズ・ハイの恍惚に包まれていた。

2024年7月6日 朝昼晩 夜は鳥よしの焼鳥