雨との予報だった。
だから二日目は温泉にでもつかってゆっくり過ごそう。
そう思っていた。
それでのんびり横たわっていたのだったが、目を覚ました家内が言った。
せっかくだからどこかへ行こう。
ガイドブックをめくると境港の海鮮丼が姿を現した。
予約は不可。
なら初動が肝心。
あっという間に身支度を整え、わたしたちは車中の人となった。
雨にけぶる山道をひたすら走って小一時間ほどで視界に日本海が見えてきた。
店は港町の入口にあった。
車内に家内を残しわたしは店の前へと進み出た。
一番乗りだった。
まもなくあちこちから客が湧き出し、あっという間に駐車場が満杯になった。
開店と同時に席へと案内されてあれもこれもと頼んで気持ち高ぶり、改めて思った。
やはり家内の言うとおり。
人生、動いてなんぼ、なのだった。
さすが漁獲高で日本屈指だけのことはある。
食べ終えて、名残り惜しい。
わたしたちは目と鼻の先にある直売所を訪れた。
いろいろな店を周って家内がコミュニケーションをとり、ここと決めた店でおすすめどころを選び自宅への発送を頼んだ。
雨が降り続いていた。
であればとナビで行き先を足立美術館に設定しクルマを走らせた。
日本一との呼び声高い庭園を眺め所蔵される美術品を駆け足で見て回り、魯山人の陶器のエリアで家内の足が止まった。
そこには母が残したのと酷似した器があって、だから当然、わたしの足も止まったのだった。
売店で聞くと、魯山人の作品を写し取った品があり、多治見の蔵珍窯で作られているという。
母の数少ない趣味を引き継ぐ家内である。
売店で小ぶりな器を買い求め、今度は多治見を訪れようというから、これも何かの縁。
母の所蔵がささやかながら増えていくことになるだろう。
そしてようやく当初の目的。
日本一の美容の湯だとの触れ込みの玉造温泉へと向かった。
たっぷり湯につかり家内はもちろん、なんだかわたしまでキレイになった。
ついでにお腹もこなれて、夜は郷土料理の名店を予約してあった。
わたしはノンアルで、女房はワインを飲んで日本酒へと進んだ。
ああ、美味しくて楽しい。
やはりどうやら、動いてなんぼ。
この日もほんとうにいい一日になった。