空港を出てタクシー乗り場へと急いだ。
階段を降りると右が大阪、左が兵庫方面と乗り場が分かれている。
いつもなら兵庫行きはガラ空きである。
が、やはり3連休明け。
すでに列ができていて、ざっとみて7〜8組が待っていた。
タクシーがやって来る頻度を計るとだいたい3分弱。
うまくいけば20分ほどで順が回る、そう踏んだ。
その間にも列がどんどん延びていった。
界隈を走る運転手らに行列情報が伝わるだろうからタクシーの回転は早まっていくに違いない。
次の日の朝早く、女房は一人旅に出かける予定になっていた。
遅くなると心身の負担がでかくなる。
それで急いたような表情をしていた家内に「15分でやってくる、電車を待つのと変わらない」とわたしは明るい見通しを伝えた。
乗り付けるタクシーのなか奄美タクシーが目立った。
お客さんを待たせない。
そんなお客さん目線の徹底したタクシー会社である。
乗務員らは韓流ドラマにでも登場しそうなガタイで皆、頼もしそうにみえる。
彼らがいるから大丈夫。
わたしは列に並びつつ、大船に乗ったような気持ちになった。
予言したより早く、15分もせぬうち順が来た。
荷物をトランクに積む際、運転手が言った。
「お待ちになったでしょう、遅くなって申し訳ありませんでした」
後部座席に乗り込んで少し話してわたしたちは気がついた。
その昔、この同じタクシーのお世話になった。
客を待たせぬよう大車輪で行き先と伊丹空港を往復している彼の仕事スタイルは健在だった。
しかし、前回いつ乗ったのかにわかには思い出せない。
こういうときに日記が役立つ。
わたしは家内に気づかれぬよう日記を検索した。
そして日記によって前世のおぼろな記憶が見事明瞭なものになった。
あ、そうそうと頭から記憶を引っ張り出したかのようにわたしは言った。
去年のGW最終日前日のこと。
わたしたちは仙台を後にし伊丹に到着し、タクシーの列に並んだのだった。
順が来て、そのとき迎えてくれたのがこのタクシーだった。
いやあ、去年は助かりました、今年も。
家の前にちょうど午後9時に到着した。
降りるときにまた気付いた。
そう言えば、ドアの縁がきらきらと光る特別仕様のタクシーだった。
運転手は荷物をおろし一礼し言った。
これからまた空港へひとっ走り行ってきます。
清々しいような思いでわたしたちは走り去る奄美タクシーを見送った。